第7話 手向けの花束に虚像の映像、あの日の夕日を感じて

扉を開ける、生まれた時から握り慣れたドアノブはどうも重く感じてしまう

並べられた靴にため息を漏らしながらわざとらしい笑みを浮かべてただいまと挨拶をする

「あらー沙奈ちゃんおかえりなさいー」

おばさんがキッチンから顔を出した、キッチンからは焦げた匂いが立ち込めている

「ただいま、

両親が死んでからお父さんの弟の治さんの家族と共にここに住んでいた、生活が変わったのもそれからだ

治さんの奥さん、洋子さん、そして二人の一人息子の健二くん

治さんは明らかに両親の財産しか見ていない、それだけならばよかった。私に興味を抱かず財産全部あげて高校を卒業して逃げれたらよかったのに洋子さんはいわゆるドラマのヒロインを気取るタイプの人間だった

ドラマと現実の違いがわからないのか両親を亡くした私を引き取り愛情を注ぐことで心を癒すかのような演技をした

料理は下手くそで調味料を過剰に入れ、掃除も下手くそで掃除好きのお母さんでも家政婦さんを雇わなくちゃ永遠に綺麗にならないくらい広い家なのにゴミ捨てを忘れたりした

それを注意すればヒステリックを起こし出ていく、そして記憶を改竄して私が悪いことをして追い出されたと言い張る

叔母さんといえばまた鼓膜が破れるかのような声で怒鳴るので私はお母さんと適当に言っている

おばさんが毎日のように見ているドラマを一度だけ見たことがある、私と同じように金持ちの両親を亡くした少女を引き取って慣れないセレブな生活と豪邸で主人公のお母さんが貧乏暮らしのノリで心を癒して家族になるとか言う話だった

一度だけ叔母さんにやめてくれと言った、しかしその後は大惨事。食器は壁に投げつけられ下手くそな料理が地面にへばりついた

まあ子育てには向かない人間なんだなと思った、そこからはおままごとに付き合う感覚で暮らした

家に帰りたくないから慎くんの家にいた、ただ心地がよかった。人と関わるのが苦手だから隣にいてもあまり喋らず一緒にテレビ見て、美味しい料理を食べて彼が部屋に戻って学校の課題を始めたら私はソファーでダラダラとスマホでSNSを見て

干渉されないあの空間がよかった、喧嘩したこともあるが彼が数分後に何もなかったのように今日は何食べたいなんて聞いてきたら喧嘩は無かったことにして

それくらいが一番よかった

だが慎くんが異世界に行ったあの二ヶ月間はどこにもいけなかった、治安が悪くなりであるく事ができなくなり逃げ場がなくなった

階段を上がり自室に入った、私の部屋は子供部屋にしてはとても広くよくこんなにいらないなんて言いながらちょっとお高めらしいベッドに幾つかのぬいぐるみを乗せていた

だがあの家族が来てからはベッドは捨てられ健二くんと同室になった、ドラマの影響だ主人公の住んでいたボロ屋は部屋が狭く家族全員が一部屋で寝ていたのだが少女は一人で豪邸に住んで寂しく反抗するようになっていたが子供同士を同じ部屋にすることで良くなったとかがあった

鞄を置いて私はジャージに着替える、お気に入りの服は叔母さんがうるさいからあまり着ない。慎くんの家に数着置いて遊びに行った時に着替える程度だ

ドラマは二十年も前の作品だからファンションやらも古めかしい、今の所謂地雷系だとかを認めないのも面倒臭い。ダサい服を着るのも嫌なのでそこそこおしゃれなジャージをよく着ていた

「慎くんの家にルームシェアとかさせてくれないかなぁ」

イチスト太郎…もとい愛理ちゃんは私の憧れだった、一人暮らしで可愛い服と家具に囲まれて友達と一緒にスイーツ食べたりしていた

叔母さんはドラマのせいで私が付き合う友達はみんな不良ということにして関係を断たされ慎くんだけはなんとか関係をつなげる事ができた

そんな二人が一緒に住んでいると考えると夢の様で自分も一緒に住みたいだなんて思う

「寝よう、体調悪いし…」

そう呟いて私は眠りについた___


「沙奈のパパさん、ママさん。悪いが土足で失礼します」

そう言って俺は扉をシャドウゲートで通り抜ける、アサシンの装備である影装備一式は靴は足音や足跡が残らず、羽織っているマントは屈折率を下げ透明人間になり、ベルトは布ずれを消し、スカーフは呼吸音を消し顔にもやがかかっているように見える

キッチンに入ると太った女がいた、奥村洋子であると理解した俺は中指を立ててやりながら鍋の中を物色してみる

「うわっ…」

泥のような味噌汁、おたまでそれを掬ってみるとベチャベチャと音を立て落ちる

「味噌入れすぎだろ…とろみつけるために小麦粉いれてんの?!」

焼いていた魚も焦げすぎ、内臓が残っていたりと酷い有様だ

俺は洋子の後ろに立ちアイテムボックスから短い15センチほどのエンチャンターが使っていた妖精の杖を取り出した、術式を構築し鱗粉が舞い散る

筋肉を麻痺させ肺呼吸を不能にし脳に送る酸素を途絶えさせる。瞬きもできず真顔でコヒュコヒュと必死に息をしようとするおばさんに俺は右目に杖を向ける

「お前は沙奈に対して無関心になる、税金やらなんやらは自分で払う…」

割とアバウトな物でもいけるので楽だなと思いつつ麻痺を解除した、酸素が充分行き渡れば後は大丈夫だ

「沙奈の部屋は2階か」

もう随分と家には来ていなかったので俺は懐かしみながら階段を上がっていき部屋について扉を開く

「寝てんのか、はぁ…もったいねえなあのベッド捨てるとかよ…」

沙奈は布団で寝ていたので俺は部屋を見渡してもう一人の荷物を見た、健二だったか家族(笑)の一人の男が同部屋だ

俺は沙奈のパパさんの仕事部屋に入った、一切手入れされておらず古い洋書は誇りをかぶっている。そして仕事机にタバコとライターがあるのを見つけた

「懐かしいな、パパさんよく吸ってたな…」

タバコの箱を開けると懐かしい香りが鼻腔をついた、よくタバコを吸いながら倉庫のバイクをいじっているパパさんを見ていた

埃を払い俺はタバコをポケットにしまい沙奈を起こすために装備を脱いで部屋に入る、すると一人の坊主頭がいた

「な、なんだお前!!出て行け!!」

壁にかけられていた金属バッドを振るう男、確かこいつが健二か

中学の頃野球部入ってたし高校に入学しても続けているようだ、そして沙奈に視線を向ける

ジャージがズレて彼女の肌が見える、何をしていたかを理解した俺は金属バッドを剣で裂いた。ソードマンが使っていた神の残した五つの剣の一つである聖剣

魔法を剣状にする事ができるこの剣はバッドを裂くと4本の火、水、風、土の魔法の剣を作り出し両腕両足を拘束して首元に刃を当てた

「殺しはしない、だが相応の報いは受けてもらう」

俺は剣を振りかぶり切り付け_____


るように見せかけた、健二は失神していた

「未遂だったからな」

罪は平等に罰する、それが最も平和な方法だ

一時の感情で殺しては人としての感覚が鈍る、人として生きるならば人のルールを守るしかない

沙奈の服を戻しおんぶして俺は家へと帰ることにした



「ん」

「起きたか?」

夕日を浴びながら歩いていると紗奈が急に服を掴んで方向を示した、示した場所は霊園

「ああ、わかった」

俺は霊園に入り沙奈の両親の墓の前に立った、線香はないので俺はタバコに火をつけた

「お宅のお嬢さんは人並みに幸せにしますよっと…どうした」

しゃがんで拝んでいた俺の背中に沙奈の頭が当たる

「催眠術で叔母さんにお前と関わらせないようにした、あとは叔父さんだけだがあんまり顔合わせてないしいいだろ」

「家どうしよう」

「…ウチ来い」

いつかみた夕日、そして彼女の顔

今日ばかりは見て見ぬふりをすることにした

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