第6話 紅の炎牙帝、そして学校
「じゃあ、俺の帰還祝いとヴォルザの歓迎会とルームシェア初日のパーティー始まり―」
俺と沙奈と愛理のパチパチと適当な拍手が収まるとテーブルの上に載せられた料理を食べ始めた
「あーえっと挨拶しときます!市川愛理です!イチスト太郎は好きなフルーツのイチゴと英語名ストロベリーを略してイチストで。太郎は特にいみないです、ネタ要素って奴です」
「質問じゃが何故こやつと一緒に住もうと思ったんじゃ?」
ヴォルザがマルゲリータを食べながら質問した、ソファーに沙奈と愛理が座りヴォルザは片膝を立てフローリングに座り俺も同じように胡坐をかいて座っている構図で俺はサーモンの寿司を食べながら同意した
「出会ってすぐの男と一緒に住むとかヤバすぎません?」
「まー面白そうだったから?」
「ええ……そんな面白半分で……」
愛理もマルゲリータを手に取りクスクスと笑いながら答えたのだがなんとも適当と言うか……
「魔王への変身は簡単じゃ、魔力を多く吸収しろ。魔王の血がお主のスキルと融合して変身の魔法の術式が構築されておるから魔力の吸収のによって使用が可能になる」
下水道にヴォルザの声が木霊する、俺とヴォルザはパーティーが終わった後に現れたダンジョンに来ていた
「よし、いくぞ」
髪と爪に意識を集中させる、周囲の魔力を吸収するには髪や爪などの神経の通っていない肉体を使う
皮膚で吸収するとミントを神経に塗布したような酷い痛みに襲われるためだ、こっちの世界でよく魔法使いが髭を伸ばしていたり爪が長かったりすのは割とあっていた
肉体の中に刻まれた術式を探し出し充電ケーブルをスマホに繋げる感覚で接続し発動する
骨が獣と同じように曲がり皮膚から灰色の体毛が生えていき八重歯が鋭利な牙へと変わる
そして俺は、炎牙帝と呼ばれた火の魔王。炎狼へと変身した
「ふむ、ワシから流れた火属性の魔力で炎狼になったか。とりあえず手慣らしにモンスターどもを倒してこい」
『わかった』
狼だから人間の言葉は話せないのだがドラゴンの状態のヴォルザと同様に魔力を振動させる魔力通話によって俺は了解の旨を伝え四つの足で下水道を走り抜ける
そして見つけたのは一メートルはあろう巨大なネズミだ
人間すらも喰らうほど凶暴で病を持つ巨鼠
俺は躊躇わずネズミの腹に飛びつき爪で切り裂いた、爪に魔力をこめると数秒も経たずに二千度まで温度が上昇し血液が蒸発し肉と内臓が焦げついていく
相変わらず恐ろしい温度だ、これでも炎狼は一割も本気を出していないのだ。炎狼の部下たち四十匹ほどが兵士の鎧を溶かし切り裂いたのをよく見た
壁を蹴って一匹のネズミに食らいついた俺は、頭を激しく振って頸動脈に牙が正確に突き刺さったことを確認してから他のネズミの集団に投げつけた
体制を崩されたネズミは俺が口から放った火球によって消し飛んだ
そして魔力が酷く溜まった場所へと入ると大きいドーム状になった部屋へと到着した、地面はないが人の死体や糞尿で足場が形成されている
中央には頭がネズミの巨大な蜘蛛が立っていた
ダンジョンの中心となる核を吸収した為いわゆるボスへと進化したようだ、面倒だし真正面から戦う必要もないと思い俺は体内に多く魔力を吸収し___
放出した
炎狼の体温は一時的に太陽と同等になる、魔力で再現されたメタンガスに引火しドームは一気に爆炎に包まれた、蜘蛛は爆散し体内に溜め込んでいたであろう死体のガスにも引火したのであろう爆発四散しドームはゆっくりと戻っていく。ダメージもなく俺は人型へと戻る。ダンジョンから元の下水道に戻ったことでネズミや死体も消えた
「終わったぞ…なんで逃げてるんだ?」
「臭いんじゃ」
入り口に戻りヴォルザに話かけると離れていく、臭いと言われ服を嗅ぐと確かに臭い
「うわっ…最悪明日学校なのに…」
朝、目が覚める。
臭いは石鹸や消臭剤を浴びるように使ってなんとか落ちた、スンスンと念の為に嗅いで匂いが落ちていると再認識してリビングへと降りた
沙奈は自宅に帰った、冷蔵庫には昨日の残りなどが収まっている
トースターに食パンをセットし卵を四つ油を敷いたフライパンに投下し火にかける、スマホのアプリでエアコンとテレビを操作しロボット掃除機のフィルター交換が必要か確認し冷蔵庫から冷えたオレンジジュースを取り出す
何何県で事故があったとか何処かの動物園で何かの赤ちゃんが生まれたなどと他愛ないニュースが流れる
焼けたトーストに目玉焼きをのせ皿によそい俺は二人を起こしに行った、愛理の寝ている寝室にコンコンとノックをするとすぐにはーいと返事が聞こえた
「朝めしができたぞ」
簡潔に説明し俺は二階へと上がる、物置にノックをするも何も返事はなく扉を開けるとヴォルザは床に丸まっていた
仕方ないと床に置かれたパソコンのモニターに朝食があるとメモを貼り下へと向かった
リビングのソファーに腰かけて朝飯を食べている愛理に挨拶をして俺もトーストを食べる
「おいしい、久しぶりに手料理食べたかも」
「なんでだ?」
「アタシも家に両親がいないし、それにインフルエンサーだからちょっとオシャレな朝食とか食べなきゃファンが離れるから」
愛理のファンは女子高生が多くおしゃれな暮らし的なものに憧れる者が多い、それ故だろう
「いやまぁ…おしゃれなの作れなくて悪いな。一人暮らしだと男の一人飯的なのがどうしても楽だからさ…」
「ううん、アタシ。こういうの好きだよ」
愛理の言葉に俺はただトーストを嚥下した
「うし、行くか」
制服に着替えた俺と愛理は共に玄関から出て学校へと向かった
市立桜河高校、市内で最も金がかかっている高校だ
進学率やら偏差値は普通なのだが市からの予算が潤沢でとても金がかかっている、元々市が育児などに力を入れているため校舎は真新しく清潔で備品なども高級とまではいかないそこそこいい物を使っていたり一年に林間学校、国内の修学旅行、海外の修学旅行の3回の旅行がある
教師の給与と待遇も良く離職率が少ない、最もそのせいで教頭のような面倒臭い連中も離れないのだが
生徒同士の問題も少ないのもいい点だ、入試のレベルが高いため勉強できる奴か相応の社会的地位の親を持つ生徒達しかいないためかいじめやら暴行騒ぎも少ない
俺たちと同じ制服をきた者達が多く通る表通りに合流し流れに身を任せて5分とたたず目的地に到着した
門をくぐり校舎へとはいる、花瓶に添えられた花の香りが鼻腔に刺さり気分をリラックスさせる
靴箱に靴を入れて俺と愛理と共に教室へと入る、ガラガラと音を立て扉が開くとクラスメイト達が一斉にこちらを見た
「っす…おはようございます…?」
何と挨拶すればいいからわからず俺は疑問形で挨拶をした、コミュ症ではないが一気に視線が集まり無言で見られるとどもってしまう
そして何の返答もないと余計に辛くなる
「おはようございまーす!」
俺の後ろから入ってきた愛理の挨拶には返答があり皆も友人との話に戻っていった、助かったと思いつつ愛理に案内された席についた
廊下側の一番後ろ、新しく机を運んだから当然なのだがラッキーだ。リュックから必要な教科書やノートやらを机に入れてスマホを見て時間を潰して授業がはじまり2時間ほど経った
「…それから」
数学の授業を気だるくうけているとスマホが振動した、画面を見ると愛理からだった
『メッセ交換してましたー、ルームシェアのグループ作ったから参加しといてね』
いつの間に交換したのかと思いつつそのメッセージの下に来ていたグループの招待に俺は参加ボタンをタップした
ニイザキが参加しましたとシステムがメッセージを流した、グループはバイト用の物を使っておりシフト表に予定が書かれていた
愛理『18時から仕事のため不在、ご飯不要』
愛理以外に予定は書かれていないが便利だなと思いつつ画面をロックし黒板へと視線を移した
午前の授業が終わり大半の生徒は昼食を食べるためカフェテリアへと向かった
「昼飯はどうしようかなぁ…」
学校には巨大なカフェテリアがある、ドーナッツ状のドームには中心部に庭園がありそこでピクニックのように食べることもできる
アプリで学食のメニューを調べていると扉が開き紗奈が入ってきた、マスクをつけており体調が悪そうだと目に見えてわかる程
「おはよう…ます…」
「ああ、おはよう。体調悪いのか?」
ちょっとと返した沙奈は重い足取りで席に座った
「よっ、体調は大丈夫か?」
「ちょっと悪いかな…お昼ご飯奢って?」
「それは構わないけどさぁ…」
沙奈を連れてカフェテリアに向かった、混み具合としては普通だ。和食カウンターと洋食カウンターとジャンクフードカウンターの並ぶ生徒達も20人前後
「俺が並んでくるから座ってな」
椅子に座らせて俺はゴミ箱の隣に置かれた未使用のコップに緑茶のティーバッグを入れてお湯を注ぎ沙奈に渡し和食の列に並ぶ
沙奈の制服の下に見えたアザ、明らかに事故のようなものではない。体調悪化の原因は瞳孔の震えから見てストレス性のものだ
「あの家族のせいか…」
小6の頃に沙奈の両親は他界した、事故死だ。最悪だったのが両親は良い家の長男長女でお見合いで結婚し金はたんまりとあった。何か物語のように愛していないということもなく互いに愛し愛され、尽くし尽くされのとても良い関係だったと覚えている
だが多くの兄弟や従兄弟連中が沙奈を求めて醜い争いを広げていた、あの時の必死に作った沙奈の笑顔はもう二度と見たくない
勝ち取ったのは父親の弟の家族だった、四人家族で二人の子供を持つあの家族は明らかな地雷だった
しかるべき組織に通報しようとしたのだが沙奈に止められた、一緒にいられないからと言っていた。現状を変えるとしたらどうするべきか
単純な力でねじ伏せるのは簡単だ、生捕りにするのも殺すのも10秒も必要ない
だがそれではまた別の家に引き取られる
「お茶漬けと、唐揚げ定食ください」
自分の番が来て注文と会計を済ませ一分とたたず頼んだものがトレーに乗せられて出てきた
「使いたくないが…アレしかないよなぁ…」
公的機関を介さず自分の意のままに世界を操る物…一種の催眠術と呼ばれるものを使う
認識の阻害や欠落した記憶の保管、この能力を使い家族全員に自分たちは沙奈に一人暮らしさせ引き取ったのは彼女を助けるため、そして遺産は沙奈に全て渡すと催眠をかける
ただ長期的な記憶となると脳に凄まじい負担がかかり最悪植物状態に、俺のいなかった二ヶ月で何があったかを調べねばならないようだ___
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