10月25日 捜索:北山村のおばあちゃん (その3)

ゾーンウィッチエイド テクラの日記


10月25日 雨 > くもりに変わる (その3)


 道の駅大塔で合羽を買えなかったテクラ。雨対策もなく、雨に濡れながら空を飛んでいた。

 雨が少し強くなってきたものの、もうこれ以上濡れても濡れなくても大した違いはない。そう思いつつ、国道を十津川方面へ南下する。


 本日の特務は、北山村で発生したおばあちゃん失踪事件。朝、山菜を取りに山に入ったおばあちゃんが戻らず、3時間以上が経過している。一刻の猶予もないのだ。

 再度無線が入る。

「(吉野本部から赤1号)」

「赤1号です」

「伊勢圏のウィッチが現着。テクラは今どの辺だ?」

「えーと、大塔温泉? を抜けたところです」


 少し間が開いた。室長のことだから、まだそんなところを飛んでいるのかとか、考えてるのだろう。こっちは合羽がなくて悲しい目に遭っているのもしらずにー。ぶーぶーぶー。


「(雨雲レーダーによると間もなく上がる見込み。雨雲がなくなれば高度を上げて最速を目指せ)」

「了解。針路指示お願いします」

「(了解、で、合羽は買えたのか)」

「赤色がなくて買えませんでしたー。」

「(そうか…………お風呂沸かして帰りを待つ)」

「了解。」


 新婚カップルを思わせるような返答を聞きながら、一路十津川へ。

『お風呂沸かしてって、いや、そうやないやろ……』


 そういや伊勢ゾーンの尾鷲の魔法少女って、近畿では5人しかいない、貴重な紫石の人と聞いた。紫石の人の特技は未来予知。かなり先まで見通せるらしく、「占術の紫」と呼ばれている。コスチュームも、ほとんどが和服姿で艶やかという話だ。その姿から「巫女の紫」と呼ぶ人もいるくらい。ちょっと見てみたいな。

 今日も散々な目に遭っているテクラは、この後目にするその紫石の人に遭うことを目的にして飛ぶ。

 そう。前向きに、前向きに。

 そうこうしているうちに、雨が上がりそうな感じになってきた。周辺にも雷をもたらす雲もなくなっている。高度を上げて、一路北山村を目指すことにした。


◇ ◇ ◇


 その後、室長の明確な針路によって、20分ちょっとで現着できた。

「その辺りに警察官と、近所の住民が集まっていると思うから聞き取るように。」

 人捜しはチームプレイで行うことが多いとあかりの講習で言っていたので、付近にいる集団を探す。こういう田舎は、人自体を見つけることも少ないので、あっけなくその集団を見つけることが出来た。


 その集団と少し離れたところに着地する。

 集団のうち何人かは気配に気づいたようで、こちらに声をかけてくる。

「もしかして吉野からのウィッチですか?」

「あ、はい」


 付近の人が、吉野の赤石さんが来たぞー。と大声で誰かを呼んだ。呼んだのは、ここの現場を指揮している警察官だろう。その警官がやって来た。

「あー、ごめんなさいねー。おばあちゃん見つかったのよー」

「ええ?」

「実はね、山菜取ってからすぐに近所の人と鉢合わせたらしくってね、それでその人の家にいって話してたらしいのよ。で、気がついたら朝ごはんも食べずにその人の家でこたつに入って寝てたらしくて……」

「もしかして勘違い?」

「ああ、まあ、そうなるかねえ」


 声も出なかった。テクラが必死に雨の中を飛びながら、道の駅で失態を晒し、やっとたどり着いたら、単なる間違いでしたー。って、ちょっと悲しすぎるよ。


「ごめんねえ。遠いところから飛んできてもらったのに」

「はい、大丈夫です」

 内心大丈夫じゃないんだけれど、そう言わないといけないよね。人として。

「で、おばあちゃんは大丈夫なんですか?」

「うん。別に何ともなかったので、さっき帰って行ったよ」

「あと、尾鷲の魔法少女は……」

「ああ、もう帰った」


 初めてかずさや希美以外の魔法少女と遭遇できるかな? 紫のウィッチはどんな人なのかな? って期待してたけど、その願いも叶わず。完全に期待外れ。

 とにかく、本部に連絡しなきゃと無線を飛ばすも、山陰に隠れているか、ケータイ電話の基地局が付近にないらしく繋がらない。しょうがないので、県道沿いを少し飛んで、郵便局の前の公衆電話から本部に連絡した。


「現場に着きましたが、おばあちゃん、勘違いで捜索しなくてよくなりました」

「ああ、こっちにもさっき連絡が入った。ご苦労だったな」

「すぐに帰ります」

「まあ待て待て。もう今日は帰ってこなくていいぞ。そのかわり、十津川に向かえ。」

「十津川ですか?」

「ああ、この前十津川の温泉入らずに帰って来たんだろ? 公衆浴場に連絡入れておいたから、入ってこい」

「おおー」

「飛んだらなるべく高く飛べば無線は入るはずだから、針路指示してやる」

「大丈夫です。ちょっと練習で自分で飛んでみようと思います」

「そうか。県道沿いに行けばおそらく大丈夫だから」

「はい。それじゃ」

「特務終了。13時55分な」


 今日の特務が終わる。これから十津川の温泉に入りに行くことになった。この前の飛行訓練で十津川に来た時に入るはずの温泉だったが、訳あって入れなかった。

 今日は念願が叶うのか。紫石さんには会えなかったけど、温泉でリフレッシュしてこよう。そう思ったテクラだった。


 その温泉で事件が起こるのは、もう少し後のお話。


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こちらの作品は

ゾーンウィッチエイド

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330648542556298

のスピンオフ作品です。


ぜひ本編もよろしくお願いします

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