10月25日 捜索:北山村のおばあちゃん(その2)
ゾーンウィッチエイド 魔法少女テクラの日記
10月25日 くもり > 雨に変わる
国道168号線沿いにある「道の駅 吉野路大塔」 交通の難所であった天辻峠を解消するべく、20年ほど前に作られたバイパス区間にある道の駅。大塔村(現在は五條市に合併)が設置した道の駅で、そういえば堀江がここの道の駅に関わっていたなと思い出す。
かなり広い駐車スペースはあるが、まだお昼前なので車はそれほど多くない。
テクラは、直前に降った一時的な大雨で、身も心も「水もしたたるナントカ……」である。
やはり人目が気になるのか、道の駅の建物入口から見えない場所に着地する。テクラのコスチュームは、上下が皮の、真っ赤なジャケットと真っ赤なミニスカである。水が染みこむことはないが、下のピンク色のシャツは、綿素材のようで水を思う存分吸っている。また、足の黒タイツはポリエチレン製っぽく、同様にぼたぼただ。履いているブーツの中にも水が入りこんでおり、不愉快度マックスである。巻いていたマフラーは早々に外して、リュックの肩紐に縛り付けている。
一度魔法を解除してみた。もしかすると、解除後の自分自身の私服は濡れていないのかも。と、淡い期待を描いてみたが、解除直後に一気に水が入ってきた。
「kalt!!!!!!!(冷た!!!!!!)」
奈良県南部なので温暖な気候だと思われがちだが、この道の駅大塔は、天辻峠を越える途中にあり、標高が高い。なおかつそこそこ雪も降る。もう少し南に下ると、12月から冬季通行止めになる道路も存在するし、この国道168号線だって、深夜になると「凍結注意」の電光掲示を表示するくらいだ。そんな場所に降る雨が暖かいわけがない。
「こらあかん……死ぬ……間違いない……死ぬわ」
私服より、魔法で変身したコスチュームの方がマシと言うことで、再度変身をする。魔法のコスチュームの方は体温調整機能があるからだ。しかし、問題はこのコスチュームである。
真っ赤な革のジャケットとミニスカ、ピンクのシャツに黒タイツ、ラメ入りの赤い皮ブーツである。本当に痛いコスプレ少女だ。これで、帽子をかぶればミニスカポリス、ムチを持てばSM嬢の完成なのだから、本当にこのスタイルは誰が考えたのか、誰が得をするのか。テクラは本当に泣きたい気分だった。
しかしこれは変更できないらしい。自身の魔法が生み出した「魔法少女の姿を具現化」したものだから。
「私の魔法……もうちょっと考え直せや~」
ここで悲しんでいても仕方がない。今は雨合羽の確保である。
道の駅の売店がある建物に入る。店内はレストランも併設しているが、まだ客は少なかった。
店内を歩いているが、何か違和感を覚えた。店員を見ても、他のお客さんを見ても、露骨に私を避けているのがわかる。
たまきばあちゃんに教えてもらったが、日本人は西洋人にコンプレックスがあるらしく、みんなあなたを見ると目を合わさなくなる。と言われた。これはあなたを差別しているのではなく、日本語以外の言葉でコミュニケーションを取りたがらない日本人の特性と教わった。日本では日本語以外話す人がほぼいないので、それ以外の言語で話すやりとりを全く知らないからだという。
私はドイツ人で、場所柄イタリア語は日常会話程度に話せる。英語もまあまあいける。フランス語も、多少は何とかなる。なので、初めて会話する人で言葉が通じない場合は、あなたは何人か。何語が話せるかと言うところを聞きながらコミュニケーションを取るのだ。だが、日本ではそういうことは一切しないらしい。お国が変われば何とかである。
し か し 、しかしである。今日はまったく違う。明らかに避けられている。私が振り向くと、全ての人が目を逸らす・体を別方向に向ける・新聞を読むフリをする。などなど……
ええ、もうだいたいわかっています。私のこの衣装が場違いなことは。
「平日昼間」に、「14歳」の、「西洋人少女」が、「ミニスカポリスの衣装を着て」、しかも「濡れネズミ状態」である。
「うん、私だって目を逸らすわな……」
あ あ 、も う 帰 り た い !!!
しかし、雨合羽である。それさえ手に入ればもうこことはすぐにおさらば出来るんだ! 近くの店員を見つけて聞いてみる。
「すいません」
「はい」
店員さんは普通に対応してはいるが、何故か肩が震えている。もうその事には言及しないし、詮索もしない。
「雨合羽ありますか?」
「あ、入口横の傘置いてあるところに……」
「ありがとうございます」
入口の自動扉のすぐ横に、ビニール傘がたくさん並んでいた。すぐそばの棚に、ビニールの袋に入った合羽が置かれていた。早く買って出ていきたいと思ったが、どこを見ても赤色の合羽はなく、ほとんどが透明か乳白色、もしくは黄色地のものしかなかった。
テクラは「眺望の赤」赤い石で魔法少女になったので、基本的に身につけるものは赤色しかダメなのだ。別の色を着てしまうと、魔法少女の本来の力は発揮されない。具体的に言うと、空を飛べなくなる。雨降りの中、空を飛びたいので合羽を買ったのに、合羽を着ると空を飛べなくなるという、なんというマッチポンプ!
再度、店員に聞いてみる。
「すいません、赤色の雨合羽はありますか?」
「ああ、合羽はあそこに置いてあるやつだけですね」
が ー ん !
そうですよね。幼児ものならまだしも、普通赤色の雨合羽なんかありませんよね。雨具を売っているお店ならあるかもだけど、こんな小さな売店には置いていないですよね。
テクラは落胆した。どうしようかと考えていると、店員から声がかかった。
「あのー、すみません」
「はい?」
「あなた、ウィッチエイドの方ですよね?」
「えっ! あ、……はい……」
「もしかして、五條の暴走事件の赤石さんですか?」
「えええええええええええ!!」
まずい。「五條暴走事故」を知っている人だ。私がやらかした最大にして最悪の出来事。過去20年間で最大のウィッチの事件・事故になると言われているあの事を蒸し返さないで欲しい。そう思った。
まあ、日本のことわざで人の噂は2ヶ月半で消えるらしいけど、まだ1ヶ月くらいしか経っていないからしょうがないんだけど……
「すいません。もしよろしければ、壁か柱に傷をつけてもらってもいいですか?」
「すいません。失礼しましたー!」
顔を真っ赤にさせながら、テクラは店内をダッシュして去って行った。今回はキチンと自動扉が開いてから出て行く。ここでまた自動扉を割ったりしたら、本当に大目玉では済まないからね。
入口を出ると、雨が降っているにもかかわらず、すかさずジャンプして大空を舞った。
もうこの道の駅では休憩できない。そう思いながらテクラは、雨が降る国道を南下して、まずは十津川村を目指すのだった。
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こちらの作品は
ゾーンウィッチエイド
https://kakuyomu.jp/my/works/16817330648542556298
のスピンオフ作品です。
ぜひ本編もよろしくお願いします
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