第20話 モブキャラと乙女の集い

 練習場でのひとときは、思っていたよりも最悪なものではなかった。


力不足なことは否めなくて家でもしっかり練習しなきゃいけないことは間違いないけど、突然仲間入りをしたわたしに嫌な視線を向ける人はいなかった。


 どちらかというと好意的で、快く仲間に入れてくれた。


 ひとえに『テオルド様』の効果が大きかったのだと思う。


 険悪な雰囲気になってしまったひとときが嘘のように、練習場につくなりテオの表情は柔らかくなった。


『自信を持って取り組めば、アイリーンは絶対大丈夫だから』


 などと声をかけてくれるうちに彼がいることを知った他の舞姫達が黄色い声を上げ、よかったら見ていかないかと提案までして、それなら……とテオも弾けんばかりの笑顔で答えていた。


(油断も隙もないのは、絶対にあなただわ)


 いろいろと、そっくりそのまま返してやりたい。


 今度はわたしがムッとする番で、じとっと隣の彼に視線をやるもテオはもう気づかない。


 嬉々として彼を案内する女の子たち。


 慣れた様子でそれに応じるテオ。


(へ、平常心よ!)


 平常心平常心平常心。


(わたしには関係ないんだからっ!)


 左手をぐっと握ると、力が入りすぎたのか小さな光が漏れてぎょっとする。


 いざ、みんなに混ざって練習を始めたら気にならなくなった胸の痛みもチラチラとテオの方に視線を向ける女の子たちに気づかない限りは気にならなくなった。


 ふぅっと大きく息を吸い込む。


 平常心よ。


 何度目になるかわからない魔法の呪文を唱える。


 どれだけ頑張っても、ここにいる全員の恋心は叶うことはない。


 いつかの未来に現れる美琴という少女に少しずつテオは魅了されていき、どんどん手の届かない人になっていくのだ。


 引き返せないほど想いすぎて立ち直れなくなったら怖いと思ってしまう気持ちと最後に与えられたチャンスだからわたしもみんなみたいに素直に楽しむべきなのか、脳内で天秤が揺れる。


 こんなチャンス、来年はないかもしれないのに。


 複雑な心境ではある。


 愛理の記憶の中で、わたしは美琴というキャラクターが大好きだった。


 好きになってしまった。


 いつも一生懸命でどんなときも前を向いているその姿は、応援せずにはいられなかった。


 挿絵で何度も見たテオルドという勇者と並んだ姿の美しいこと美しいこと。


 どれだけ心ときめいたことか。


 たとえ自分という存在モブキャラであっても、あの空間を邪魔してほしくない!というもうひとつの気持ちもなぜかわたしの中でも生まれていた。


(考えすぎなのかしら)


 女の子達は、収穫祭で準備をする贈り物についてもきゃっきゃっと花を飛ばしながら楽しそうに計画を立てていた。


 収穫祭の終わりを告げる花火が鳴り終わるまでに大切な人にその人の瞳の色と同じ贈り物をするといつまでも一緒に過ごすことが叶うというジンクスがあるらしい。


 偏ってごっそりなくなる色があると姉さんが嘆いていたのを聞いたことがある。


 胸をドキドキさせながら、彼女たちのように素直に大切な人を想える女性だったらよかったのに、と願わずにはいられなかった。

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