第13話 わたくしとアイドルとの距離

わたくしはアトリオ様が好きですわ。




多分、アイドルとしてではなく、前世ですら感じたことのなかった恋愛感情として。


ランバートお兄様に言われたからではありません。


いいえ、分かった切っ掛けはランバートお兄様なのですが。




わたくしは、アイドルを推してきたことはあれど恋をしたことはありませんでした。


わたくしの中で推しと恋とか愛は別物でした。


そう、まさしく偶像崇拝でした。




そのわたくしがアイドルを自らお願いしているアトリオ様を愛しているとなると大問題ですわ。


いえ、婚約者ですし将来的は婚姻するのですが。


推しアイドルと結婚。


いいえ、いいえ、好きな方との結婚。


こちらの方がしっくりきますわ。


そう思える時点でわたくしがアトリオ様のことをお慕いしていることは明白ですわ。








つまり、わたくしは初めからアトリオ様のことを恋愛感情で好きになってしまっており、それを推せると勘違いしてずっと見てきたのですわ。


推しアイドルがアイドルとして歌って踊って煌めく姿は尊いものですが、好きな方が歌って踊っている姿を見ることは、きっとアイドルを推している時の感情とは違うものなのでしょう。


そうと分かったらアトリオ様にご報告せねばなりませんわ!








「つまりわたくしは、恋愛感情でアトリオ様をお慕いしているので、アイドルとして推せないというわけですわ!せっかくアイドルとしてこれまでご研鑽の日々を過ごしていただいたのに申し訳ありません!」


お時間をいただき登城し用意された一室にてアトリオ様と対面したわたくしは勢いよく謝罪しました。


アトリオ様が慌てて顔を上げるよう申し上げてくださいます。


「ちょっと待って、ロゼッタ嬢は私のこと、恋愛感情で慕っていると言いました?つまりは好きと?愛していると?」


若干の混乱と共に事実確認をされましたが、ご本人から言われるととても恥ずかしいものですわね。


「その通りですわ…申し訳ありません!推しアイドルを邪な目で見てしまっておりましたわ!」


「ロゼッタ嬢は私と婚姻するのだから何も問題はないじゃないか。どうか謝らないでください。それに、アイドルとしてではなく恋愛感情で好きなんだろう?それに邪な目でなんてとんでもない。とても光栄だよ」


訂正が入りますが、少し違います。


「いいえ、わたくしはアトリオ様をアイドルとしても推したいのです。これは恋愛感情という邪な心ではなく純粋な心で!」


だって、そうでなくては今までの皆様のご苦労も水の泡になってしまいますわ。


理想のアイドルユニットを作るなんて言いながら、一番見ていたアトリオ様に恋をしていたせいでアイドルとして見れず、結果としてアイドルユニットとしても満足して見れていなかったなんて!!




一番推したいと思っていたアトリオ様を推せない理由が推したいからより愛していたからだなんて。




尚も謝罪するわたくしにアトリオ様は困った顔をして言い募ります。


「ロゼッタ嬢は言っていたじゃないか。アイドルはキラキラしていて夢や希望を与えて皆を笑顔にして生きる活力を与えてくれる。私はロゼッタ嬢にとってそんな存在になれていないかい?ロゼッタ嬢が愛してくれる私も、アイドルとして推してくれる私も、ロゼッタ嬢が好きといってくれるならなんでも嬉しい」


「………いいえ、アトリオ様はキラキラしていてわたくしに夢や希望を与えてくださり笑顔にしてくださいますわ」


「それならよかった」


アトリオ様が微笑みます。


何故でしょう。先程から心拍数が異常ですわ。


訳の分からない汗が流れるわたくしを余所にアトリオ様が言い募ります。


「私もロゼッタ嬢がとてもキラキラ輝いて見えて、あなたと作るこの国のことを未来のことを思うと夢や希望が湧いてくる。皆を笑顔にしたいと思えるよ」




「私もロゼッタ嬢のことを愛しているので、あなたの言葉はとても嬉しい」


そのお言葉に全身が沸騰しそうです。


わたくしは、推しに愛が勝ってしまい推せなかったのに、それでもいいというのでしょうか?








推しは…推しは尊いものなのです!


ですから、恋愛などという俗物的なものとはかけ離れた存在だと思っておりました。








そう震える声で告げるわたくしにアトリオ様が優しく仰います。


「『推したい』と『お慕い』ってどちらも同じ『おしたい』じゃないか」


「アトリオ様のお口からそのようなダジャレ聞きたくありませんでしたが、確かにその通りですわね!」


わたくしは自他共に認めるほど流されやすいのですわ!




お慕いしていても推せるでしょうか。


それは今後のわたくしの心に聞いてみないと分かりません。








ですが、わたくしとアトリオ様は手に手を取り合って見詰め合いました。


「アトリオ様、わたくしはアトリオ様をお慕いしていますし推したいと思っております」


「私もロゼッタ嬢を慕っているし推したいと思っているよ」








後日、リリアンヌ様にこのお話をしたところ「惚気話は余所でやれ!」とお叱りを受けました。


何故でしょう?


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悪役令嬢はアイドルを推したい!!ですので、王子はアイドルになってくださいませ! 千子 @flanche

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