第12話 わたくしと推しと好き

リリアンヌ様の申された推しと好きをはき違えているのでは?という疑問はわたくしの中で埋め尽くされていました。




推しと恋愛感情の好きは違う。


そんなこと、前世ですら分かっていましたわ。


いえ、前世で好きになったのは推ししかいないので恋愛感情の好きが推しの好きとどう違うのかは分からないのですが…。


婚姻するのですし、アトリオ様を恋愛感情として好きになることに対しては前向きに検討させていただきたいと思っております。








そもそも、サリュエル様も前世のアイドルとアトリオ様達のアイドルとは違うと申しておりましたわ!


まずはそこからですわ!




わたくしにとってアイドルとは生きる希望であり、夢を与えてくださる、皆様を笑顔にする存在。


リリアンヌ様や他の女生徒達からの反応を見てもアトリオ様達のアイドルユニットはそれを達成なさっている筈ですわ!


本当に前世の熱いステージと何が違うのでしょう?


リリアンヌ様はわたくしが空虚に感じた入学式のステージも素晴らしいと絶賛しておりました。


確かにとても素晴らしいステージでしたわ。そこは認めましょう。


ステージ上で歌い躍り最高のパフォーマンスをするために皆様がとても頑張っていらしたのも一番近くで見てきて存じ上げております。


これで熱くならない筈がないのです!




やはり、リリアンヌ様の攻略情報の通り皆様に心の闇があるなら悪役令嬢であるわたくしにも心の闇があり、熱くなれないのでしょうか?


………そういえば、リリアンヌ様は攻略はすすんでいらっしゃるのでしょうか?


あまり女生徒とゴシップになると解散問題に発展しかねませんからバレないように程々でお願いしたいものですわ。


あとわたくしの心の闇があるなら晴らしてほしいですわ。




サリュエル様もご自身なりに前世のアイドルと何が違うかお考えになっておりますし、リリアンヌ様はお忙しいところをアイドル活動をさせてしまい更にお忙しくさせてしまった皆様の好感度とイベントスチルを集めるため奮闘なさっておりますし、アトリオ様には恋愛感情とやらのことを考えるとお会いしにくいですし、どなたにご相談しましょう…。








…そうですわ!わたくしには困ったとき、幼い時から頼りにしている方がいらっしゃるではありませんか!


早速お手紙をお送りしご都合のいい日時をお訊ね致しましょう。


同じ学園内であれど、学年が違えばあまり都合も合わないものですものね。








お返事はすぐに届きました。


放課後、学園の談話室の片隅で未婚の男女が二人きりにならないように配慮しつつあまり話が聞かれないようにしてくださるところはさすがランバートお兄様です。




「ランバートお兄様。実はわたくし、皆様を最高の推しアイドルにすると決めておりましたのに、推しきれないんですの…」


わたくしの理想の推しアイドルにするために勧誘し、そのために頑張ってくださってきたランバートお兄様に推しきれないと告白するのはとても心苦しかったですが、ランバートお兄様は優しく聞き返してくださいます。


「それは私達がロゼッタの期待にまだ応えきれないということかな?」


「いいえ、いいえ!ランバートお兄様達のステージはいつだって素敵で最高でした!ですが、わたくしの求めるアイドルと何かが違うのです…」


肩を落とすわたくしの頭をランバートお兄様が優しく撫でてくださいます。


「そうか…。それは何故だろうね?」


「ランバートお兄様達のステージは、わたくしの求めるアイドルユニットそのものですし、皆様のご苦労は活動を一番近くで見てきてわたくしが存じ上げております」


「でも、何かが違うんだね?きっと最初から」


そのお言葉でわたくしがアイドルユニットを組み最初の練習から違和感を抱いていたことがランバートお兄様には分かっていたことを知りました。




「最初から違うなら、最初の間違いを探せばいい」


最初の間違い…。


「実は、リリアンヌ様という方に推しと好きをはき違えているのではとアドバイスされました。わたくしがアトリオ様を恋愛感情の意味で好きだから推せないのでは?と、言われましたの」


「ああ、リリアンヌ嬢とは顔見知りなのかい?」


リリアンヌ様は既にランバートお兄様とお知り合いだったのでしょうか?


とりあえず一通り攻略すると仰っていましたものね。


「ランバートお兄様もリリアンヌ様とはお知り合いでしたの?」


「ああ、なかなか面白いご令嬢だね」


にこやかに答えてくださいますが、真意は分かりません。


ランバートお兄様には時折そういうことがあります。




「ランバートお兄様。愛とは、恋とはなんなのでしょうね」


「まさかロゼッタからそんな言葉を聞くとはね。アトリオ様との婚約は嫌かい?」


優しく訊ねられて首を横に振ります。


「いいえ、いいえ。アトリオ様はわたくしにとても優しくしてくださいます。アイドルになってほしいなどという我儘も聞いてくださいますわ!とても、とても好きですわ!」


ランバートお兄様がにこやかに微笑みます。


「きっと、それが答えだよ」


首を傾げるわたくしにランバートお兄様が続けます。


「ロゼッタは、私達のステージを見ている時よりもアトリオ様と一緒の時が輝いているよ」


ランバートお兄様がわたくしの頭を撫でながら諭すように仰います。


それは幼子に言い聞かせるようでした。




「ロゼッタは、アトリオ様のことを好きだと思うよ」


わたくしがランバートお兄様にアイドルになってくださるようお頼みした時のようにウィンクして応えてくださいます。




わたくしが、アトリオ様のことを好き。


それは多分アイドルとしてではありませんわ。


何かが掴めそうなわたくしにランバートお兄様がまた微笑んでくださいます。




ランバートお兄様は何もお変わりありません。


とても素敵な、わたくしの頼りになる従兄ですわ。


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