第11話 わたくしとヒロイン2
「リリアンヌ様…わたくしは、わたくしの望む理想のアイドルユニットを作るべくこれまで研鑽してきました」
「そこは王妃になるためにって建前でもいいから言った方が良いんじゃないかしら?」
嫌がるリリアンヌ様を我が家の馬車に無理矢理乗せ連れ帰り、強制相談茶会を開かせていただきました。
最初は嫌々ながらも我が家のガゼボにて、リリアンヌ様がクッキーを次から次へと貪りながら突っ込みを入れてきますのでその順応力はたいしたものですわ。
アトリオ様達がアイドルになることに関しましては、幼い頃よりアトリオ様達をアイドルにしなきゃ王妃にならないと駄々をこねておりましたので、そこら辺は王家の方々にも諦め…ご了承いただけておりますわ。
「なのに、推しきれないのです。推せはするんですが、前世の熱と何かが違うんです…」
「へー」
「あのライブの昂揚感がないのです!ペンライトがないからでしょうか?スポットライトがないからでしょうか?チケット争奪戦に勝てたという喜びがないからでしょうか?移動したりせり上がるステージがなくきらびやかではないからでしょうか!?」
「ふーん」
「わたくしは、わたくしなりに現在の技術で出来うる限りやりましたし、アトリオ様達も最高のパフォーマンスを見せてくださいます!!」
「それは分かるわ!あのアトリオ様達は最高でした!素敵なライブをありがとうございました!」
「ありがとうございます!プロデュースさせていただいたわたくしが皆様に代わりお礼申し上げますわ!」
ここで力の抜けた返事を繰り返していたリリアンヌ様が急に立ち上がりわたくしに握手を求めてきました。
もちろん応じさせていただきました。
リリアンヌ様とは同担ですが、仲良くなれそうですわ!
「それで、ライブで熱くなれないんだったかしら?あれでも充分なパフォーマンスだったと思うけど?」
「いいえ、わたくし達と同じく前世の記憶があるサリュエル様も何かが違うと仰ってましたわ」
「ちょっっっと待って!!攻略対象の宰相の息子であるサリュエル様も前世持ちなの!?」
ここでリリアンヌ様から待ったが掛かりました。
まあ、そうですわよね。
まさか前世持ちが三人も居るなんて思いませんでしたわよね。
しかも攻略対象者とヒロインと悪役令嬢の三人。
ここまで来ると他にもいらっしゃる気がしますわ。
「私の夢にまで見た乙女ゲーム転生が…上手くいかない気しかない…」と、リリアンヌ様は肩を落とされておりますが、残念ながらわたくしの問題はリリアンヌ様の攻略事情ではないのです。
「リリアンヌ様。リリアンヌ様はヒロインとして攻略対象者の方々の心の闇を払い、めくるめくラブロマンスをされる予定でしたのですわよね」
「そうよ!」
リリアンヌ様は言い切ります。
先程までは上手くいかない気しかない…と落ち込んでおりましたのに素晴らしい立ち直りですわ。
「リリアンヌ様!ヒロインならばヒロインらしく!悪役令嬢たるわたくしの心の闇も晴らしてくださいませ!そしてわたくしのアイドルを推させてくださいませ!」
「なんでやねん!」
リリアンヌ様の突っ込みはいつもコテコテでございます。
「だって、考えてしまうのです。皆様最高でしたのに、何故熱くなれないのか。サリュエル様はもしかしたら攻略対象者としての心の闇とやらが原因かもしれません。ならば、わたくしにも心の闇とやらがあってそれが原因で盛り上がれないのかもしれませんわ!お願いします!アトリオ様を推させてくださいませ!」
わたくしの懇願にリリアンヌ様はため息を吐いて一蹴されます。
「推せないなら推さなきゃいいじゃない」
リリアンヌ様はそう申されますが、私はアトリオ様を推せると思ったのです。
現に今だってお優しいアトリオ様のことがすきなのです。
大好きなのです。
これ以上推せると思えた方、前世でもおりませんでしたわ。
わたくしが心の内を吐露するとリリアンヌ様はまたため息を吐かれました。
「あんた、推しと好きをはき違えてるんじゃない?」
その一言はわたくしにとって衝撃的でした。
当のリリアンヌ様は固まるわたくしを余所に、またクッキーをボリボリ食べてらっしゃいますが、わたくしにはそれどころではありませんでした。
好き、と、推すは、違うもの。
好きな方なぞ前世でも居らず、推ししか存在しなかったわたくしには青天の霹靂でした。
わたくしは、アトリオ様をアイドルとして推しているのではなく、恋愛対象として好きなのでしょうか?
だからステージに立ち歌い踊っているアトリオ様を見ても前世のような熱ではないのでしょうか?
好きな方として見ているから、アイドルとして見ていないから、アイドルに求めるものと違うのでしょうか?
いいえ、ですがサリュエル様もわたくしがプロデュースしたアイドルユニットに対し、アイドルとして何かが違うと仰ってましたわ。
何がどう違うのか、わたくしには未だに分かりませんが、アトリオ様のことを恋愛として好きかは少し考えてみようかとおもいます。
「リリアンヌ様!ありがとうございます!わたくし、ほんの少しですが光明がみえてきましたわ!さすがはヒロインですわ!!」
「そ、そう?まあね!なんて言ったって私はヒロインなんだからね!当然よね!」
「わたくしにはわたくしのアイドルユニットがわたくしの求めるアイドルとして何が違うのかまだよく分かりませんが、アトリオ様を恋愛対象として好きなことは前向きに検討してみようかと思いますわ!」
「堂々とライバル宣言してんじゃないわよ!!」
リリアンヌ様はお怒りのようでしたが、わたくしはアイドルに対して、アトリオ様に対して、ほんの少しですが方向性が決まりかかってきました。
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