第5話 わたくしと魔術師団長のご子息
次のターゲットは魔術師団長のご子息様ですわ。
相も変わらずアトリオ様も同席されております。
ですが本日は違いますの。
なんといってもアトリオ様がアイドルになることに乗り気になってくださったからです!やりましたわ!わたくしの推しが推し活させてくださいますわ!
天気のいい我が家のガゼボの筈ですのに、なんとなく魔術師団長のご子息アルフォンソ様の周りはどんよりしておりますわ。
これはネガティブ系自己否定男子のオーラ!数々のアイドルを見てきたわたくしが断言するのですから間違いありませんわ!
ですが、そんなこと関係ありませんの。
わたくしの推せる推しアイドルユニットを作るためにもアイドルの幅は広い方がいいんですの。
「アルフォンソ様、アトリオ様達からもお話が通っているかとは存じておりますが、アイドルになりません?」
わたくしの真摯な眼差しにアルフォンソ様は目も合わせず俯き小さくゆっくり喋ります。
「でも、僕なんかじゃ…。兄様達と違って魔力量も少ないし魔法も下手だし、皆さんの足を引っ張ってしまうのでは…?」
自分の服を弄り否定的な言葉を言われても、そんなこと問題ありませんわ。
なぜなら。
「アイドルに魔力量も上手い下手も関係ありませんわ!」
急なわたくしの大声にアトリオ様もアルフォンソ様もびくりとされました。
レディにあるまじき失態ですわ。ですが、アルフォンソ様がアイドルを勘違いなされているのでしたら正さねばなりません。
「アイドルとは、皆様を笑顔にする素晴らしい職業ですの」
「みんなを…笑顔に…」
アルフォンソ様の興味がこちらに向いてきました。
そう…どん底だったわたくしに夢と希望を与え、チケットの当落日のドキドキ感は今でも忘れられません。
ペンライトを持って会場に入り、ライブ中のあの一体感。
誰推しでも構わない。楽しめる。それがアイドル!ライブというものですわ!
「でも、僕なんかが歌って踊ってもみんなを笑顔に出来ないと思う…。僕、何をやってもダメだし…」
「そんなことありませんわ!この世にダメな方なぞおりません!貴方のことが好きな方も、きっとこの世におりますわ!ご家族は貴方のことがお嫌い?アトリオ様とわたくしは貴方のことが嫌いではありませんわ」
好き、とまでは初対面ですのでまだ言えませんわ。アトリオ様は知りませんが否定しないので嫌いではない括りでいきましょう。
「家族は………みんな、優しい。魔力量が少なくても魔法が下手でも、お父様もお母様もお兄様達も笑わない。みんな、周りから庇ってくれる。僕は、僕も家族が好き…」
拙いながらもアルフォンソ様は主張してくださいます。
家族への愛が溢れておりますわ。
…前世のわたくしの推しもあまり有名な方ではありませんでした。
ブラインド商品でははずれ扱いされて心底ショックな日々もありました。
ですが、推している人は居るのです。
わたくしのように。
「あなたしかダメだと仰ってくださる方はきっとおりますわ。勇気と希望を持ってくださいませ」
アルフォンソ様を抱き締め慰めると即アトリオ様に剥がされました。
「………魔法も上手く出来ない僕だけど、誰かを幸せに出来るならアイドル?っていうの、やってみてもいいよ…。やれることがあるなら、頑張ってみたい。僕の力で家族を笑顔にしてみたい………」
アルフォンソ様もアイドルになることを決意してくださいました。
順調にメンバーが増えていきますわ!
やりましたわ!
ですが、前世のライブを思い出し、ペンライトを振る楽しさを思い出してしまいました。
お抱えの魔術師に映像機器だけではなくペンライトの開発もさせましょう。
そうしましょう!
これは忙しくなりますわ!
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