第4話 わたくしと騎士団長のご子息
次のアイドル候補は騎士団長のご子息、グラン様ですわ。
グラン様は騎士団長のご子息だけあって今のうちから鍛えられ、真っ直ぐな性格のワンコ系美少年と聞き及んでおります。
アイドルユニットに欠かせない存在ですわ!
勧誘の腕が鳴るというもの。お会いするのがとても楽しみです。
グラン様とのお茶会にももちろんアトリオ様が同席されました。
わたくしが居ない間にサリュエル様からの口添えでアトリオ様からグラン様へアイドルのレポートが渡されており、わたくしのアイドルへの勧誘もスムーズにいきました。
さすがは前世の友。仕事が早いですわ。
ですが、グラン様はあまり乗り気ではないご様子です。
「グラン様はアイドルにご興味がないのでしょうか?」
「皆の士気を高めるために必要なことならやってみてもいいんだけど…」
そこまで言い淀んでグラン様は頬を掻きながら答えます。
「アトリオ様がやらっしゃらないことを俺達がやるわけにはいかないですし」
そのお言葉は真実であるのでしょう。
事実、サリュエル様もアトリオ様がやらっしゃるならと仰いました。
上司がやらないことに、部下がやる義理も道理もございません。
わたくしとしたことが、肝心なことを見落としてしまいました。
前世のアイドルグループにはリーダーという存在はあれど、上司と部下という関係ではありませんでしたもの。
しかしこれで挫けるようではわたくしのアイドル熱が侮られるというもの。
アトリオ様を説得なさいましょう。
なにより、アトリオ様はわたくしの推し!
最推しがいなければ、アイドルの存在が許されても虚しいだけですわ!
「アトリオ様、アトリオ様はまだアイドルになることに、側近候補の方々とアイドルユニットを組むことにご反対ですの?わたくし、アトリオ様が最推しですのでぜひアトリオ様にはアイドルになっていただきたいのです!」
「さ、最推し?」
新たな単語にアトリオ様が怯みます。
「とても好きな方という意味ですわ!」
言い切るわたくしにアトリオ様の頬が赤くなります。
なんて愛らしいのでしょう。
映像技術が発達していたら連写しているところでしたわ。
「アイドル、というものに関しては君のレポートと資料とサリュエルからの口添えでよくわかった。そして、国の士気を高めることも重要だということも充分に分かっている。だが、そのアイドル活動を私達がする必要はあるのだろうか?」
「わたくしの好みと知り合いでプロデュースさせていただきましたわ!!」
「そ、そうかい…」
「それに、先程にも申した通りわたくしの最推しはアトリオ様ですの。アトリオ様がいらっしゃらないアイドルユニットは、わたくしにとってお肉のないすき焼きですわ」
「ちょっとよく意味が分からないけど、ロゼッタ嬢が私のことを好きで、ご自分の好きなアイドルに好きな私を組み込みたいということかな?」
「そうですわ!さすがはアトリオ様!察しがよろしいですわ!」
わたくしが喜んでアトリオ様のまだ柔らかい両手を取り振り回すとアトリオ様はまた頬を染めて「ロゼッタ嬢がそこまで言うなら前向きに検討してみるよ」と仰ってくださいました。
わたくしが勧誘している間、手持ち無沙汰なのかグラン様は茶会に出されていたお菓子をすべて食べきっておられました。
さすがは騎士団長のご子息様。胃袋もお強いんですわね!
「だが、アイドルをするにしてもこの衣装やら曲やらはどうしていこうか」
アトリオ様がアイドルに乗り気になってくださいました。
と、いうことはサリュエル様とグラン様もユニットメンバー入り確定ということですわ!
三人も獲得できました!これは快挙ですわ!
でも、アトリオ様のご心配は不要なものですわ。
「ご安心くださいませ!アトリオ様!こんなこともあろうかとこの国一番の振付け師に作曲家、作詞家と衣装係を揃えておきましたの!」
「なんにも安心できないしいつの間に揃えていたんだい?ロゼッタ嬢!」
既にアトリオ様は突っ込み系苦労性リーダーの素質が開花しておりました。
わたくしのプロデュースしたいアイドルユニットが順調に育ってきている…。
そのような実感を得ることが出来ました。
そのままわたくしが呼び出した衣装係によるアトリオ様、グラン様の採寸が始まりました。
サリュエル様は後日計られるそうです。
「まぁ、まぁ、まぁ!!グラン様はご立派な体格をなさっているのですね!これならどんなバク転や客席を湧かせる大技も出来そうですわ!」
自分で言うのもなんですが、見目麗しい美少女に頬を染め褒められて満更にならない男子はいない。
「仕方がないから採寸だけはしてやるよ。アトリオ様もアイドルやるって言うしな!」
チョロい。チョロいですわ。
自分で仕込んでおいてグラン様のあまりのチョロさに将来の騎士団が不安でなりません。
国防には力を入れましょう。
「お年頃ですもの成長も早いはずですわ。少し大きめに作りましょう」
今の年頃しか着られないようなデザインの衣装から始めましょう。
かわいい子供のうちから下積みを重ねて青年になり華々しく学園の入学式でデビューする。
それがわたくしのプランですわ!!
こうして、わたくしの理想のアイドルユニットが形作られてきました。
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