第3話 わたくしと宰相のご子息様
わたくしが熱意を持ってアトリオ様にアイドルを語ってもいまいち理解されませんでした。
それどころか医師を呼ばれて家に返されてしまいました。
自室のベッドで考えます。
やはり、アイドルへの勧誘は急すぎたでしょうか?
ここはやはり少しずつアトリオ様にアイドルに興味を持っていただいてマイクを持っていただかなければ…。
そういえば、この世界にマイクはあるのでしょうか?
どう見ても中世ヨーロッパです。
アイドルなぞ、無謀に思えます。
ですがそれがなんだというのでしょう。
わたくしはアイドルを愛し、アイドルのために死んだ女。
絶対にこの世でもアイドルを流行らせて皆様に笑顔になっていただきますわ!
そう、絶望のどん底だったわたくしが、死ぬことすら考えたわたくしが再び立ち上がり生きようと思えたように、皆様もアイドルを知ればきっと楽しいと思ってくださる筈ですわ!
わたくしが推したいだけではなく!ええ、皆様のためでもあるのですわ!!
そのためにはアトリオ様をアイドルに勧誘しつつも他のユニットメンバーを集めなければなりません。
この時点でのわたくしの顔見知りはアトリオ様の側近候補の宰相のご子息、騎士団長のご子息、魔術師団長のご子息、教団のお孫様、公爵家の次男ですわ。
………考えれば考えるほど乙女ゲーのような人選ですわね。ヒロインもいらっしゃるのかしら?
わたくしは何かの罪で断罪されてしまうのかしら?
いいえ、それを考えるのは時期尚早。
今はアトリオ様をアイドルにする事、ユニットメンバーを揃えることに専念致しましょう。
まずは将来的にもアトリオ様の右腕になるであろう宰相のご子息様にお近づきにならなければなりませんわ!
そうと決まればさっさとねてしまいましょう。
やることは山積みですわ。
とりあえず、明日はアトリオ様にアイドルについての熱いレポート、またアトリオ様がアイドルになることにより出るであろう国益を算出し提出して説得。
宰相のご子息、確かお名前はサリュエル様でしたわね。
アトリオ様の婚約者としての地位を利用し、サリュエル様にお会いするお約束を取り次がねばなりません。
このアイドルへの熱量、お手紙だけではサリュエル様に届きませんわ!
ぜひユニットメンバー候補の方々には直にお会いし、ご参加をお願いしなくては!
この時のわたくしは、きっと誰もがアイドルになってくださり、推しユニットが輝くステージで人々の喝采を浴びる姿を夢見ておりました。
サリュエル様とのお目通しは思いの外、早く叶いました。
ただし、アトリオ様もご一緒です。
これは好都合ですわ!
前回はあまりアイドルについてご教授出来ませんでしたもの。
医師まで呼ばれて返されるなんて屈辱、もう二の舞はしませんわ!
この世界に馴染みのない『アイドル』について、できうる限り詳細に紙に書かせていただきました。
そして、未来の国の顔たるアトリオ様がアイドルになることで得られるメリット、デメリットも仔細に書かせていただきました。
これで決戦の準備は出来ましたわ。
わたくしは、意気揚々と馬車に乗り込みアトリオ様とサリュエル様のお待ちになる王城へと向かいました。
アトリオ様は相変わらず麗しく、さすがはわたくしの推し…!と心の中でガッツポーズをさせていただきました。
「初めまして、サリュエル様。ごきげんよう。この度アトリオ様の婚約者に選ばれましたロゼッタと申します。本日は貴重なお時間をいただきましてありがたく存じますわ」
「初めまして、ロゼッタ嬢。こちらこそアトリオ様の婚約者にお目通り出来て光栄です。本日はよろしくお願い致します」
サリュエル様は理知的で少年ながらに国を支える宰相様のお父上の面影がありました。
わたくしのカーテシーにアトリオ様もサリュエル様も礼を尽くしてくださいました。
推し達の礼儀が正しくてお茶が美味しいですわ。
「そうでしたわ!わたくし、本日はアトリオ様とサリュエルにぜひお読みくださりたいものを持ってきましたの」
侍女に用意させたアイドルに関してのレポートがアトリオ様とサリュエル様の間に置かれました。
「先日はアイドルに関してあまりご理解をいただけなかったようですので、このように纏めて記させていただきましたわ。ぜひお読みになってください」
「また『アイドル』ですか…」
若干引き攣ったアトリオ様とは違い、サリュエル様は目を輝かせました。
「ロゼッタ嬢はアイドルがお好きなのですか!?」
「ええ!もちろんですわ!わたくしはアイドルのために生き、アイドルのために死にましたの!」
「僕もだよ!握手券のために何十枚とCDを買ったっけ。懐かしいな」
理知的な表情は一変してそこには同じアイドルオタクがおりました。
そしてお互いが察せられました。転生者であると。
きゃっきゃと話が弾むわたくしたちにアトリオ様はついていけず、仕方がなくアイドルに関してのレポートと国益についてとメリットとデメリットをお読みになっておりました。
わたくしたちの熱いアイドル推しトークが一段落ついたところでアトリオ様も大体の内容は理解されたようです。
「つまり、ロゼッタ嬢は僕達が民衆の前で歌い踊れば人心を掌握し国営が上手くいくと言いたいのかな?」
そこまで考えておりませんでしたが頷いておきます。
「短期間でここまでの資料とレポートを纏めたのはさすがだと言える。だか、サリュエルと距離が近すぎないか?君の婚約者は私のはずなんだが。二人だけで訳のわからない話で盛り上がって…」
ふいっと顔を背けるアトリオ様は拗ねているようで、わたくしは不謹慎ながらとても悶えておりました。
サリュエル様は、ご自身がアイドルのユニットメンバーになることは主であるアトリオ様がアイドルになるならばとお約束をしていただけました。
肝心のアトリオ様はまだ納得がいかないようでアイドルになるとは仰ってくださいません。
わたくしの熱意がまだ届かないのでしょうか。
わたくしは、推しであるアトリオ様がアイドルになり、皆様の心の支えになっていただければ充分なのですが…。
なかなか難しいですわね。
仕方がありませんわ。
次のプランを練りましょう。
とりあえず宰相のご子息、サリュエル様はアトリオ様がアイドルになればアイドルユニットのメンバーになってくださると約束してくださいましたし、前向きにいきましょう!!
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