第41話:アリスのネックレス

 労いのパーティーが終わり、数日が過ぎる頃。スッカリ魔力が回復した私は、見習い錬金術師として活動していた。


 本来なら、クレイン様の工房で形成スキルを練習する予定だったが、神聖錬金術で感覚をつかみ、一つの目標だったペンギンの置物を作ることに成功している。


 よって、今はアリスの実家のレストランで、最初に立てた目標のネックレスを作っていた。


「へえ、すごいじゃん。もう一人前の錬金術師かな?」

「まだまだ見習いの立場ですよ。技術だけが先行しているだけで、知らないことの方が多いんだから」

「そんなこと言っちゃってー。冒険者ギルドでも話題になってたよ。ミーアが活躍した話」


 褒められるのはありがたいことだが、最近は私の噂が変な広がり方をしているため、ちょっぴり居心地が悪い。どこに行っても声をかけられるほど、色々な業界で話題になっていた。


 生徒の捜索に関与した冒険者ギルドと騎士団、生徒たちの親である貴族や平民の家族たち、そして、薬草不足でポーションが作れないと騒いでいた錬金術ギルド。


 極めつけに、パーティー会場で国王様に話しかけられたのだから、疑う余地はない。


 いくら貴族でも、短期間のうちに何度も噂が流れるのは珍しく、今や注目の的になっていた。


「アリスまで変に煽らないでよね。あれはクレイン様と共同作成した結果であって……」

「自分で気づいてないかもしれないけど、普通は作業を補佐する人が助手になるはずだよ。宮廷錬金術師と共同作成なんて、それ、ほとんど同じ立場で語ってるんじゃない?」

「現実を突きつけるのもやめて。いろいろとおかしいことくらいは、もう気づいているから」


 ジール様と一緒に下積み時代を過ごした私は、厳しい現実を理解しているつもりだ。宮廷錬金術師の助手になったとはいえ、不可解なほどスムーズに進む物事に、疑問を抱かないわけではない。


 最初こそクレイン様の後ろ盾が大きい、そう思っていたけど、今は明確に違うと察していた。


 冒険者ギルドで貴族依頼を担当していたこともあって、自然と顔が広くなり、色々な人と信頼関係を築いていたんだろう。


 だから、ジール様が引き受けていた依頼が、私の元に回ってくるわけであって……。


「まだ見習い錬金術師なのに、忙しくなりそうだよ。早く薬草不足が落ち着いてくれるといいんだけど」

「少し時間がかかるらしいね。薬草菜園をしている人が言ってたもん」

「先は長そうだね。今はポーションが普及して、平和な王都に戻ってくれることを祈るしかないって感じかな……っと。はい、これで完成だよ」


 魔鉱石を加工してネックレスを作り終えると、ようやく形成スキルが身に付いたと実感した。


 細かい装飾はもちろん、肌に触れても痛くならないように丸みを作り、バランスよく形を整える。術者のセンスが問われるアイテムだが、今回のネックレスに関しては、ありきたりな形にさせてもらった。


「そのネックレスの飾り、ミーアの家の家紋じゃないの?」

「そうだよ。よく覚えてたね」


 貴族は友好の証として、家紋の付いたものを渡す風習がある。


 近年では悪用される機会が増えたので、渡す人も少なくなったと聞くが……、アリスには渡しておきたいと思っていたものだ。


「本当にもらっちゃってもいいの?」

「アリスのために作ったものだからね。これで貴族と対話する時も楽になると思うよ」


 子爵家の家紋とはいえ、さすがに格上の貴族も無下にはできない。地位の低い貴族も互いに敵に回したくないため、横暴な態度は取らなくなるだろう。


 そんなことを考えていると、アリスが苦笑いを浮かべていた。


「そのことなんだけどね、実は冒険者ギルドにカタリナが戻ってきたんだよね」

「ん? 冒険者ギルドは辞めたはずなんじゃ……」

「どういう風の吹き回しなのか、ギルマスに頭を下げて、復帰を頼み込んだらしいの。迷惑をかけた取引先の貴族の元にも足を運んで、謝罪も済ませたみたいだよ」


 薬草不足の原因を作ったジール様が罪に問われたことで、二人の関係も終わったみたいだ。


「しかもね、カタリナの話はこれだけじゃないの。噂では、取引先の貴族が折れるしかないほど地面に頭を擦り付けたとか、先方の屋敷前で夜通し謝り続けたとか、別人みたいな話が聞こえてくるんだよね」

「それ、本気で言ってる……?」

「本当らしいよ。そのこともあって、ギルマスも今回だけは復帰させるって言ったんだもん」


 わざわざ肩身の狭い場所に戻るなんて、いったい何を考えているんだろう。


 新しい目標でもできたのかなー。


「今後は、私とカタリナの二人体制で貴族依頼を担当する形にするって」

「それ、大丈夫なの?」

「うん、今のところは。むしろ、率先して書類整理を始めるくらいには仕事熱心で、怖いくらいだよ」

「それは確かに怖い。でも、ジール様もおかしかったんだよね。この間、人が変わったように謝罪されて……」


 二人に何があったのかわからない。でも、改心しているのであれば、様子を見るのもいいだろう。


 少なくとも、私にはもう関係のないことだ。他人の心配よりも自分の心配をした方がいい。


 今後は錬金術を学ぶ者として、新たな一歩を踏み出していかなければならないのだから。

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