第3話
『地獄の世界へようこそ』
その囁きはそう言葉を投げかけてきた。囁き声と共に顔に飛び込んできた蠢いていたものの正体が露わになった。
……蜘蛛だ。
身を黒に包み昆虫特有の六本の足を動かし彼女の顔面の上を動き回る。気色が悪い。普通の人がこのような目にあったら、おそらく発狂程度はするだろう。しかし彼女はちぃさなころから虫に対して特別耐性がある。理由は定かではないが。そんな彼女が恐怖して言葉一つ出てこないほどのホラー演出。蜘蛛は彼女の耳の中に入り込み皮膚を切り裂くような感覚を味合わせながら、鼓膜のほうへ進んでいく。彼女は時間が止まったように顔の表情ひとつ動かさずいた。蜘蛛が鼓膜付近に到達した瞬間、囁き声が再び聞こえた。
『楽しんでね…』
刹那、感覚が全て戻った。
ガラァァ……。扉を開ける音がし、先生らしき人物が入ってきた。
「いやぁ素晴らしい才能を持った新入生がいたものだねえ。怪異にあっても眉ひとつ動かさないなんて。おかげでこの学校に対しての説明を言葉でしなくてはならなくなってしまったよ亅
教室がざわつく…私は自分のことを言っていると気づいていたが、特に無反応でことを済まそうとした。 が…
「そこだよそこ、そこの彼女。君…何物?」
私の方を指さしてくる。
だが…私の勘が言っている。ここは惚けるべきだと。
「な、なんですか?急に」
「なぜ惚ける?君に取って肯定することにマイナスはないのに」
「事実ですので」
「そうゆうことにしておいてあげよう」
クラス中の視線が痛い。自意識過剰とかではなく、事実だ。
その中で入ってきた人物が教卓に手をつき
「え〜てなわけで皆さん初めまして。このクラスの担任をさせていただきます。内山銀次郎と申します。先ほど怪異をなんだかんだと言いましたが、これに関しての資料を配布させていただきます。」
クラス全体がざわつく。不安や興味様々な感情がわかる。
私はというと疑問が交錯していた。すると、隣の香織が不思議そうな視線を感じた。それに応えるように香織の方に視線を向けた。
(あとで詳しく聞かせてね?)
と言わんばかりの満面の笑顔に打たれそうになったが耐え、私も笑顔で返した…つもりだ。
前から資料が回ってくる。
「全員資料は手に持ってるか?」
内山先生が問いかける。
「それでは説明を始める。」
みんなの返答を待たずに勝手に始めてしまう。
「まずはタイトルだ。『この学校における怪異について』と書いてあるだろう?単刀直入にいう。この学校では怪異を乗り越えるものにポイント、いわゆる成績ってやつが与えられる。勉学に励むものものにもポイントは与えられるが基本的に怪異でこれはつけられる。では各自資料全体に目を通してくれ。この後に質問などの時間をとる。その時を過ぎたら基本的に質問は受け付けない。それではどうぞ。静かに取り組みたまえ。」
すこし鼻につく話し方をする先生にざわつく教室。しかし、先生の眼差しによってすぐに治った。私も目を通し始める。
怪異について
・皆一度は耳にしたことがあるであろう怪異。この学校ではその怪異が幾度も発生する。それは乱数によるもの。完全ランダムで何が誰に発生するかはわからない。そういうものだ。
・世の中の怪異というものを意図的にここでは発生しやすくしている。その理由として怪異という珍しいものを乗り越えることこそ完璧な人間の育成と考えている。
・怪異を乗り越えたものに対するポイントは生徒に配布される端末によって判断され、即時ポイントが貯まる。
・生徒間の助け合いについては基本認める。ただし一人が怪異に遭遇したとして周りの友人などが助けたとしても遭遇した人のみポイントが獲得され助けた人はゼロなものとする。
この学校について
・完全寮生活となる。※ご家庭にはすでに通知が入っているので心配いらず。
・各自所持のスマートフォンについてはこの説明時間後に回収され家庭に返却される。
・各自端末が配布されその中で解決してもらう。これには一般的なスマートフォンの機能はすべて搭載されている。
・ここの地下には世界最大規模の商業施設が存在する。
・金銭に関して。
ここでは原則日本銀行券は使えない。代わりに各自端末に支給されるゼロポイントで支払う。
先ほどの成績に関連する怪異のポイントによって支給されるゼロポイントは変化する。一律入学者には100の怪異ポイントがある。その怪異ポイント×100のゼロポイントが支給される。毎月1日に支給されるものとする。
・寮生活は本日からスタートする。世の中に流通している9割はこの地下の商業施設ガレアモールに存在している。
以上のことを踏まえてこれから三年間生活してもらう。健闘を祈る。
筆記 生徒会顧問 長嶋貴恵
…終わった…のか?あまりにもラフな説明書に疑問が残る。
「ねぇね、はーちゃん。これさ本当のことなのかな。」
まさかの疑問が香織から飛んできた。確かにこの文面に疑問を持つのはわかるがそこまでか…
「ちょっと思った。文面だよね変なのは。」
すると
「ざわついてきたということは読み終えたということだな?では質問時間に入る。何か質問はあるか?」
「はいはーい!」
元気よく手をあげる宮下。
「お前は…宮下か。なんだ?」
「えっと、休日も制服着なきゃダメですか?」
「そこは指定はない。休日の服装は自由だ。」
「じゃあもう一つ!学校外に出ることはできる?」
「目上の人に対しての敬意を忘れるな。学校の敷地内から出ることは禁止だ。どんな理由があろうと。過去一人だけ外出を認めた奴がいるが、例外に過ぎない。出れないものと思え。敷地内に生活出来るだけの施設は揃ってる。」
「ありがとぉー!」
先生の表情が歪む。
「他いるか?」
「はい!」
誰だ?あまりにも見た目が普通すぎる。特徴がない。
「お前は…渡辺か。なんだ?」
「なんかシンプルに疑問なのですが。この説明書に書かれていることは本当ですか?」
おおおおお前よく言った。
「なぜそのようなことを聞く。」
「いやぁ、なぜと言われても直感的にそう感じただけで詳しい理由はないんですが。」
「そうか渡辺、、覚えておこう。その疑問正確には私では答えられない。すまないが教頭などを当たってくれ。」
…?。何故教頭なのだ。執筆は生徒会顧問と記載されている。これは注意したほうがよさそう。意味深すぎる。
「他は?」
「はい」
まさかの香織が手を挙げた。
「美味しいご飯はありますか?!」
ーーーーーーーー絶句した。クラス全体で一人一人反応が違う。私のように絶句するもの。思わず吹き出してしまうもの。冷たい視線を送るもの。
「ふっ。呑気な質問だな。それか深い意味があるのか。問いたださないが、感性の差だろう。私にとっては美味しい店はある。」
「ありがとうございます。」
そこから何人か質問を重ねた。
「そろそろ大丈夫だろう。これで質問時間を終了する。これ以降基本ルールについての質問は受けない。ただし渡辺。お前はこれが終わったら俺について来い。」
「あえ?はい!」
「良い返事だ。」
「さて、話は変わる。先ほど説明書に書いてあった端末を配布する。名前を呼ぶので前に取りに来い。ついでに所持しているスマートフォンないしはガラケー持ってきてこの袋に各自入れろ。」
教室内がざわつく。
そこから名前が呼ばれていき、私も受け取って帰ってきた。
これは…スマホだな。普通の。
クラスのそれぞれもスマホだなという感想が聞こえてくる。
「はーちゃん…電源つかないんだけど。」
香織が話しかけてきた瞬間先生が
「今説明するから余計なことをするな」
とクラスに言い放った。
「持ってない奴はいないか?これがないと生活できないぞ。」
大丈夫でーす。
「なら説明を始める。後ろにボタンがあるだろうそこを長押ししてくれ。」
一斉に光を放ち始める端末たち。教室の何処かしこを見渡しても同じ画面が見える。
「ついたら生徒手帳を出してくれ。そしたら端末の裏に当て続けろ。認証されお前たちのものとなる。こういうものの扱いはお前たちの方ができるだろう。あとは自由にしろ。充電は付属されているものを使え。」
生徒手帳を当て続けると承認完了と文字が出てきた。身分証としても使えるらしい。zeropayと書かれたアプリを開いてみるとQRコードとバーコードが出てきた。おそらくこれが決済方法だろう。他にもカメラ、メール、g○○gle関連、アプリストアなどなど。本当に普通のスマホと変わらない。
「あと追加で身分証明のところがあるだろう?そこから寮への行き方。何号室かまで記載されている。その端末はそれぞれのルームキーにもなる。外で充電が切れたらそういうことだと。」
言われるがままに開いてみると、私は404号室らしい。not foundとでも出てきそうな部屋番号だが。
「これでホームルームは終わりだ。このあとは自由だ。明日も8時半にここに座っているように。では」
今日から始まるこの学園生活。乗り越えられるのだろうか。何か怖い。
普通の学校ではない。
さてこれからどうするか…。
憂鬱な日々の締結 てーる @TeiRu_R
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