第15話 美術館の再現

「逃げているだけです。今日の日美子さんはとても怖い」と、いいながら、夏梅はドレスがうれしいのか、何度も鏡をみている。


 夏梅の人生、すべてが逃げる事で成り立っている。


 その言葉の重たさを知っている日美子さんは、感情があふれて来るのを、うつむいて我慢しているようだ。夏梅の肩をなでると部屋を出て行った。


 そのあと、鏡を見ている夏梅に天十郎が「逃げるとか言うなよ」と言いながら、携帯のカメラで夏梅を撮りだした。しまいには、お嬢様と執事パターンで二人ではしゃぎ、大笑いをしている。


 しかし、慣れない女性のエスコートを義務付けられている蒲だけは、不機嫌だ。


「お腹がすいたら、メロンパンを買って来たから、これを食べていろ」

 天十郎がメロンパンを出して来た。


「あまり好きじゃないけど」

 夏梅は興味なさげにメロンパンを受け取った。





【天十郎はメロンパンを夏梅に渡すと】


 鏡の前で衣装チェックをしながら夏梅に

「可愛くねえ。嬉しい!とか言ってみなよ」


「…」返事のかえって来ない、夏梅に天十郎は仕方なさそうに

「はいはい、メロンパンではなくて、なにが好きなのかな?」


「クリームコロネ」

「どうして、ベタベタが好きなのよ」


「そう言われても…」


 その時


「おい、夏梅は大丈夫か」蒲が驚いたように声を上げた。


 その声に、振り向くとメロンパンをボロボロこぼしながら、口にほおばっている夏梅がいた。


「わぁー。こいつ。こぼすなよ。日美子さんに怒られるだろ」


 蒲が夏梅を抑え込もうとしている。天十郎も夏梅のそばにかけより


「しっかり噛め。口を大きく開けろ。口をちゃんと閉めろ。メロンパンをちゃんと口まで運べ、手の筋肉使え」と叫んだ。


 夏梅は「うん」と答えているが、知らん顔だ。


「まったく、汚い食べ方だな。メロンパンの上だけ、はがして食べればいいのに、口が小さいのか?そういえば歯も小さいな。蒲に比べると乳歯みたいだ」


 天十郎はあきれながら、夏梅を捕まえて口の中を覗いている。


「そんな殺生な」夏梅はもがいている。

「夏梅、天然記念物もんだ」天十郎はため息をついた。


「おい、誰だ、夏梅にメロンパンを食わせたのは」

 蒲が天十郎を責めるように言った。


「俺だけど」天十郎は何事も起こっていないかのように答えた。


 蒲は気が付いていないが、天十郎は、メロンパンを食べている夏梅の口の中を、平気で覗いている。


 幼いころから一緒にいた僕でさえ、そんな事は出来ないのに…。


「見てみろ、こいつは、まともに食えないのだから」

 夏梅を抑え込んだまま、蒲が夏梅のVラインの胸元を、天十郎に見せた。


 夏梅はVラインの中に手を入れようとしている。

「胸、触るな」蒲が叫んだ。


「だってかゆい、胸の間にパンくずがある」夏梅はごそごそ動いている。

「見えないからいいだろ」天十郎が言うと


「馬鹿かお前、そのうちかきむしって、痒いと大騒ぎになる」蒲が怒鳴った。

「どうして?」


「谷間に汗をかくから」

「えっ」


 しかし、しゃれたデザインの燕尾服の男が二人して谷間を覗いて、必死にパンカスを取っている光景は…。なんとも表現しがたい。


 周囲から人が集まりだした。そりゃそうだ、誰だってこの光景には目が留まるだろ…。





【騒ぎを聞きつけて、日美子さんがやって来た】


「ちょっと、二人共、なにをやっているの」

「天十郎が夏梅にメロンパン食わした」


「それで、なにが起こっているの?」

 二人共やっと、夏梅から離れた。


 天十郎がおずおずと

「一度、ドレスを脱がしてシャワーする時間ありますか?」

「ないわよ」日美子さんの表情は険しい。


「見せて、あら、これは汗でチクチクするわね。ウエットティッシュで拭けばいいわ」


 冷静にバックから、ウエットティッシュを出すと夏梅に渡した。


 それを天十郎が「お前が見ても見えないだろ」夏梅のウエットティッシュを取り上げて拭きだした。


「まったく人騒がせね。この控室、誰にも見られないように、隔離しないとだめかしら?」日美子さんはあきれている。


「せんべいの方が良かったか?」天十郎が、すまなそうに弁解した。

「塩分はもっとだめでしょ。もう、時間がないのだから、建設的ではない質問はやめて」と日美子さんはムッとした。


「うん」天十郎はいたずらを見つかった、子犬のようにうなだれ、夏梅の谷間を中心に、丁寧に服と肌についた、食べカスを取り除いた。


 日美子さんは、新しいウエットティッシュをカバンから取り出し


「夏梅ちゃん、ウエットティッシュを持っていなさい」と渡した。

「はーい、日美子さんのバックって、なんでも出て来る!」


 と、問題児は嬉しそうに、ウエットティッシュを胸の谷間に挟んだ。


「ちょっと!夏梅ちゃん」日美子さんは驚いて、声を上げたが、諦めたように「あら~、そんな芸当が出来る人は、少ないわね~」あきれたようだ。


 夏梅は、ドレスを探って「だって、ポケットないです」日美子さんに「ね?」と表情だけで同意を求めた。


 可愛すぎる…。


 僕は思わず心がほぐれ嬉しくなった。ふと、横を見ると、天十郎がうつむき隠れるように、僕と同じような表情をしている。


 こいつ…。


「もー!次から次へと問題ばかり」


 日美子さんは下を向いて、我慢をしているように見える。爆発するのか?と思いきや、深呼吸をしながら「想定内、想定内」小さく自分に暗示をかけている。気を取り直し「仕方ないわね。先に誰がついているのだっけ?」夏梅に聞いた。


「蒲」夏梅が答えた。


「なら、二人共、ウエットティッシュを持っていなさい。何が起きても冷静にね」


 蒲にも渡されたが、渡されたウエットティッシュを、なにげなく、近くのテーブルの上に置いた。どうやら、持ち歩く気はないようだ。


「夏梅ちゃん、くれぐれも飲食はNGだからね」


「あぶちゃんさせればいいのに」蒲が不貞腐れたようにいうと、

「次回のデザインはそうするわ」





【ところでエスコートだけど】


 と、日美子さんがため息をついた。


「申し訳ないけど、茂呂社長が来賓席ではなくて、急遽、ゲストモデルをやる事になったのよ。誰がステージまで連れて行くの?」


「来賓は俺で、ゲストモデルのエスコートは天十郎の仕事だよ。なるほどね。そういう変更か…」蒲が不安そうに言った。


「やっぱりね。天十郎君?大丈夫かしら?」日美子さんも不安そうだ。


 天十郎が茂呂社長と会うのは久々のはずだ。


「仕方ないだろ」天十郎の顔が急に曇った。

「俺だって、茂呂社長はご遠慮願いたい」蒲が言うと、思いついたように天十郎と蒲が、同時に夏梅の顔を見た。


 天十郎は「また夏梅様に、お願いするか?」にっこり夏梅に笑いかけた。


 早速、日美子さんは黒川氏と連絡をとり、トップにカバーガール夏梅が彼女風に、コマーシャルタレントの天十郎をエスコートする。


 次に、ひとり、ひとり エスコートするはずだった、貴賓席とゲストモデルのエスコートは、まとめて、蒲が担当する事になった。






【開場が始まった】


 入場前から夏梅は嬉しそうだ。

「漫画で見たことがある。お嬢様に執事が二人ついているみたいだ」と大喜びだ。


 ステージ袖で直前まで、蒲が夏梅について歩こうとするのを、天十郎が夏梅を引き寄せ、蒲を睨みながら夏梅にからみつくように、ベタベタとマーキングし、それを蒲が引き離そうと三人で絡み合っていた。


「執事、歩けないだろ。どうでもいいけど、腰押しつけるな」

 夏梅も含め小競り合いをしていた。


「あの三人どういう関係な訳?」コソコソとあちこちから声がした。


 その声に立花編集長がボソッと言った。

「蒲と天十郎が、夏梅を取り合っているように見えるけど、違いますね。これが…」

 となりにいた和樹が「なにが違うのよ?」と聞いた。


「あの二人、昔の蒲と塁に似ている。いや、少し違うかな」

「意味が、解らないわ」


「まあ、気にしなくていいよ。和樹さんはストレートだってね。蒲から聞いたよ」

「立花編集長、業界あるあるは、内緒でお願いよ」

 お姉言葉を発しながら、目は真剣だ。


「わかっていますよ。台本とキャラクター。創られた、真実のない、やらせの世界です。お互い、利益のためですから」立花編集長は、穏やかに答えた。





【ステージに閃光が走った】


 急遽、カバーガールとして夏梅は、開幕と共にひとりで閃光のステージに立った。


 ステージの上で、振り向きざまに、まるで、美術館の続きをしているように甘ったるく燕尾服の天十郎をステージの中央まで踊るようにエスコートした。


 天十郎もまた再現をするように、優しく、いとおしそうに夏梅を見つめ、愛しい女しか目に入らない愚直な男を演じた。


 二人共、一斉に全注目を集め、フラッシュシャワーを浴び、あまりにも完璧な、二人のツーショットは、会場をどよめきと羨望の渦に巻きこんだ。


 和樹は圧倒され

「黒川氏うまいですね。最初に天十郎と夏梅の登場で興奮気味の会場は、嫌でも盛り上がりますよ。あの人、才能があるかも知れないですね」


 紹介されるゲストの衣裳は、広告主のプレタポルテの新規参入のメーカーの担当者の尽力があり、タイアップが可能になった。


 会場で配布された、黒川氏の作成したリーフレットには、衣装のみ掲載され、この衣装をコーディネートした人を、会場で見つけて欲しいというキャッチコピーがついている。


 当然、パーティの来場者はリーフレットを見ながら、リーフレットの衣装を身に着け、ヘアとメイクをコーディネートすると、どうなるのか?


 使用前、使用後を確認する。黒川氏夫婦の仕掛けは上々だ。短期間で効率が良く、パーフェクトだ。


 もともと、表面的には可愛いタイプの蒲が、おしゃれな燕尾服を身にまとい、さらに可愛さをアップさせた。その蒲が、会場内を歩きまわり、ゲストを探し出してスポットライトを当てた。


 会場内を蒲が歩き回るたびに、会場からは黄色い声と歓声、ため息が聞こえた。それだけで、十分来場者の注意を引いている。


 フェイスメイクに使う化粧品はもちろん、茂呂社長の化粧品だ。夏梅は化粧映えのしない顔だ。実際にはベースメイクもしていないし、眉毛を整えたくらいだが、ナチュラルメイク(薄化粧)としてズルをした。


 当初、茂呂社長は、久々に会う天十郎が、夏梅にぴったりくっついているので、不愉快な表情を露わにしていた。しかし、ステージが終わる頃には、黒川氏が断念すると思ったこの企画が、想像以上に、周囲の反響が良かったせいか、満足そうにしていた。


 利益が多ければ、問題を回避できることは多い。





 【ステージが終わり】


 天十郎と蒲が、両側に座るように設定された席に、夏梅はつき、日美子さんが傍についた。


「夏梅ちゃん、ステージに上がっても、堂々として、素敵だった」

 日美子さんは興奮気味だ。


「照明がついたら、天十郎しか見えなかったから、何も怖くなかった」


 日美子さんは、会場の熱気とステージ照明の暑さに頬を紅潮させ、汗ばんでいる夏梅のうなじを、手元のハンカチにフレグランスをつけて拭いている。


 日美子さんはよく理解している。血行が良くなると、周囲を巻き込む困った状態になるのだ。しかし、こんなに汗ばんでフレグランスくらいで回避できるのか?不安だ。


 すでに、天十郎は控室に居る時から少し変だ。


 フリータイムには、来場者が、ゲストを代わるがわる褒める輪と、それとは別に、夏梅の周りには遠巻きに男達の輪が出来た。





【料理が運ばれてくるようになってから】


 天十郎と蒲に挟まれて座っている夏梅は落ち着かなくなった。


「お願いだから、静かにしてくれ」


 蒲が気にして、夏梅の方を向くと、天十郎が夏梅の肩を抱き寄せ、首筋にしなだれるようにくっつき、小さな声で夏梅になにか話しかけている。


「だからさ、おとなしくしていろ、蒲が落ちつかないだろ」

「何が」


「おとなしくしてないと、暴露してやるぞ!」


「なにを曝露するのよ、芸能人相手に暴露大会なら負けないわよ。天十郎より私のネタの方が大きいのは、ご存じですか?」


「知っていますよ!」

「だったら、私に指図をするんじゃあないよ」

 

 今日の天十郎の絡み方がいつもと違う。蒲が、横目で天十郎を睨んでいる。まずいな…。まさか蒲まで…。雄をゆすぶられているのか?


「ふざけるな」

「大声でネタ晴らしをしてやる」


「やってみろよ、俺のモノを食わせるぞ」

「ええよ、美味しくいただきます。私さ、歯は丈夫だから、よくかみ砕いて、会場を血の海にしてやるからな」


「お前、乳歯のくせして怖いな」

「何を今さら、乳歯ではありませんよ、執事殿。執事が雇い主を侮るな」


 ベタベタにくっつきながら、互いに耳元で愛の言葉をささやき合っているように見えるが、実際には危なすぎる会話だ。


 夏梅達のテーブルにも、料理が運ばれて来た。綺麗にデコされたキウイサラダだ。日美子さんが声を上げた「盲点だった」その声に黒川氏がテーブルを見た。





【キウイだ!】


「なに?」和樹が黒川氏夫婦に聞いた。日美子さんが「あの子キウイが大好きで、子供みたいになっちゃうの。聞けば気の毒、見れば目の毒なのよ」


 夏梅はお皿の上のキウイをひたすら集めて食べている。


 黒川氏が「つまり、何事も見たり聞いたりすると欲望が起こって心身の毒になる事だな」和樹がフッと笑って「たかがキウイに大げさですね」というと「いや、夏梅のキウイのスキが偏っていて、あればあるだけ食べようとするんだ。腹痛に下痢してもとまらないほど好きだ」


 日美子さんがイライラして

「ちょっと、どっちがウエットティッシュを持っているの?」

「夏梅です」蒲が答えた。


「まさか、胸の谷間に入れたままじゃ」

「どうしたの?」黒川氏が慌てている日美子さんに聞いた。


「いや、待合室で…。それどこじゃないわ。夏梅ちゃん、ウエットティッシュを先に取り出しなさい」もぞもぞ、夏梅が胸元を覗き込んだ。


「あー俺がやる」天十郎が挙手した。

 蒲が「やめろ」天十郎の腕を掴み、天十郎ともみ合いになった。


「ちょっと揉めている場合じゃない。ドレスが…」


 日美子さんが天十郎と蒲の間に入り、とめたが、天十郎は日美子さんの手を振り切って、胸元のウエットティッシュを探し始めた。


 Vカットのドレスの豊かな胸の間に手を入れて、ウエットティッシュを探している光景は、なんとも言い難い。


「どこまで深く入れた?」


「この辺」とドレスの上から夏梅が指をさすと、天十郎は胸の谷間に手を突っ込んで「入れすぎだろ」と二人で会話をしている。


「あー、もーいい。このテーブルナフキンでいいでしょ」


 黒川氏が耐えきれずに、自分のテーブルナフキンを差し出した。同時くらいに天十郎は、ウエットティッシュを夏梅の胸から取り出した。


「痛い!ウエットティッシュの角で傷ついた」


「沢山、血が出たか?」天十郎はまた覗き込んで「大丈夫そうです」答えながらウエットティッシュで、夏梅の口の周りを拭いている。


 蒲は不愉快でたまらないように、顔を歪ませた。





【夏梅はきょろきょろし始めた】


 自分のお皿が終わると、他人のお皿が気になるようだ。それまでおとなしく座っていたのにフォークを離さず、中腰だ。


 そして、天十郎のお皿にあるキウイに手を出し始めた。


「離せ、キウイを離せ。後で買ってやるから離せ」と天十郎は夏梅体を後ろから抱え込み、フォークを持つ腕を抑えると、夏梅は力任せにそれを振り払おうとしている。


 天十郎と夏梅がもめ始めた。


「あの子、本当にキウイ好きなのよね」日美子さんがため息をついた。

「マタタビ科だからな」蒲は無視している。


「蒲、何とかしなさいよ」

「なにをやっているんだか…。放置すればいい」


「天十郎の未来が、かかっているのよ」

 

 蒲はしかたなく、天十郎から夏梅を引き離し、かばうように腕を回して耳元にささやく。


「夏梅、帰りにゴールデンキウイ三箱でどうだ」


 夏梅は両腕を、蒲の首にからませ、嬉しそうに頬をよせ抱きついた。蒲と夏梅の、その動作に、天十郎が夏梅を引っ張った。


 そして、自分の元に引き寄せると、抱きしめて、夏梅の目と耳の間にキスをした。夏梅の表情が硬直して、天十郎を見つめた。





【二人は長い事見つめ合った】


 僕は不愉快だった。夏梅に目と耳の間にキスをするのは、この僕だけだ。その様子に、蒲が苛立ち、夏梅を挟んで天十郎に顔を近づけ、小さな声で


「今、キウイの在庫がある限り持って来てもらうから、これ以上夏梅を使うな」

「何を言っている?お前は夏梅に触るな。小芝居がばれる。お前忘れたか?」


「それでも、むかつく」蒲が殺気立った。


 キスで、僕だと勘違いした夏梅はその会話を聞いて、我に返った。


 夏梅がひどく落胆した顔をして首元からチェーンを取り出した。その先にはUSBがついている。


「キスしたな!デカマッチョなんか蒲に殺されてしまえ、頭に来る。いい加減にしろよ!このUSBが見えないんか?」


「なんだ?USB?」蒲が驚いたように

「まさか…、どこにしまってあった」天十郎が青ざめた。


「胸」勝ち誇ったように、夏梅が得意げに答えた。

「だって…」天十郎はしどろもどろだ。


「お前なんかに見つかるか!いくらだって隠せるわい!」蒲と天十郎は固まった。


「はい!モネを見に行った時の交換条件でしゅ~よ~。隠し撮りましたでしゅ~。ね~。ウフフ。今日は記者さんたち多いでしゅね~」


 なぜか、赤ちゃん言葉の夏梅は悪魔のように見える。


「いつの間に…。なにを撮ったんだ?」

 天十郎が焦った顔をした。天十郎と蒲の焦り具合が尋常ではないので


「どうしたの?」日美子さんが聞くと二人とも同時に

「なんでもない!」強く否定した。


「夏梅、安心しろ、帰ったら絶対にゆるさないからな」蒲が毒づいた。三人ともにこやかに絡み合っているが、流れて来るムードは険悪だ。


「まあ?いいでしゅね~。その言葉使い~!」


「外から見れば、お嬢様を挟んで執事が二人でいがみ合っているように見えるな」

 立花編集長が笑いながら三人を止めた。しかし、完全に二人とも夏梅に飲み込まれているような気がする。


 特に蒲には驚いた。あいつ、男性オンリーを貫くはずではなかったのか?…。遠巻きにしている男性群は聞き耳を立てて居る。蒲はフッと笑うと夏梅から離れ、立花編集長に「ご希望に添えて何よりです」と丁寧なお辞儀をした。

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