第16話
「黒川さんが来てくれて嬉しいです」
「別にいつものことだけど」
会議で久しぶりに会ったが、そっけない。そこがまた素敵だ。
「いや、黒川さんは怪力じゃないですか」
「男より体力ある」
「一人二役」
他の委員の人も褒めてるけど、僕は遥の魅力はそこじゃないと思うんだ。
遥が近くに座っていると思うと、余計に頑張れる気がした。副委員長の早川は既に疲れてるけど。塾もあるからね…。
そして、設営でも時間削減。卒業生頼りにしないシステムを開発。テント張りなんて遥さんに去年一昨年習ってるから、学生だけでできる。ちょっとした補助はしてもらう程度。
遥には草取りや石ひろいという地味作業をしてもらうことに。几帳面だし、他の人にもいろいろと教えてあげられるしね。
リハーサルでは、暇だから遥が話しかけてくれた…のに。女の子が余計なことを言って嫌な雰囲気となってしまった。わーん、ショック!もっとしゃべりたいのに!
本番は無事終了。片付けも大幅に楽に。
よーし。さっさと準備しよう!
「黒川さんへ
3年間お世話になりました。
またお会いしたいです。
細川秋人」
恥ずかしいけど、手紙を彼女のカバンに乗せた。紙切れであるけれど…。誰かに読まれるかもしれないけど…これにかけるしかない。
誰の予約も入れないでおいたので、スムーズに校庭横に行けた。来て下さいとは書かなかったけど…無視される恐れもある…
怖いので経済学の本を読む。落ち着け、秋人。だめだ。集中できない。本を置いて流れる川を見る。
「なにしてんの?」
「あ、黒川さん。よかった、まだ帰ってなかった…」
この顔はなにも知らないって顔。
「は?」
「僕の手紙読んで頂けましたか?」
「あーこれ?」
遥はすぐに手紙をカバンから出した。わー
「あ…なんか修正入ってますけど、そうです」
「修正?」
「またお会いできたら…って書いたんですけど…」
修正ペンで消されてた。あー、女子の仕業だな。すごく不快だけど、会えたからもういい。
「あ、そう」
「お会いできてよかった。言いたいことがあったので」
「なに?来年もまた来いって?」
「いえ。僕は、あなたが好きです」
「?」
まったくぴんときてない。
「黒川さんは、僕に対しても平等に接してくれた。僕のことを知っても」
「なに?どうゆうこと?」
「僕は、黒川さんが好きなんです。付き合って下さい」
「意味わかんない。私、あんたなんか好きじゃない」
がーん…はっきり言われるとか。でも、嫌がってはない。
「…あの、学校外でも会ってくれますか?」
「あんた社長になるんでしょ?無理でしょ」
「会えるときに…時間は必ず作ります!」
「彼女いるくせに」
それ、気にしてくれたのか…話とか聞いたり見られたりしちゃったかな。
「いませんけど?」
「うそ」
「嘘をつく意味がわかりません」
「だからー」
これは、少し怒ってる。じゃあ、押すしかない。
「僕は、遥が好きだから。一緒にいたいんです」
「あ、あんた名前なんで知ってるの?」
うっかり名前呼びしていた。ええい!押せ押せ!
「僕が聞きましたよ。1年のときですが」
「いやそんなことより、学生と学外で会うなんてできないし」
僕と付き合うことには文句はないってこと?だろうか?
「では、卒業してからなら構いませんか?どこのジムにいるんですか?」
「しつこいな」
「すみません。黒川さんともっと話したくて」
「…駅前の。でも、こないでよ!」
ダメもとで押してよかった。来ないで、なんて言うけど教えてくれたじゃないか。
「卒業してから行きます」
そのまま、あっそ。と言って去ってしまったけど。僕はぜーったい覚えてるから。
誕生日の1月には自動車免許を取得。遥と会うためにできること…書類整理等は早めにしておいた。
卒業式の次の日。
で、久しぶりに会った。
「兄さん、身長伸びてない」
「うん、それはお互い様」
やはり双子の運命なのか…。会見には出席するだけだけど、無駄に高いスーツを着せられ。映んないのに…。合間には関係者への挨拶。てんてこまいな1日だったけど、これから遥を探さねば!
「兄さん、みんなでご飯食べるよ?」
「先約あるから。悪いけど明日でもいいかな」
「わー、また女の子と遊んでるのかー」
「そうそう。あ、でもこのスーツで行くのは…」
「僕の私服かしてあげるよ!持ってきてるから」
「あぁ…助かるけど…」
勇人の趣味ってちょっとお子様っぽいんだよね…。このニットなんて星条旗?が胸に編まれたダサい服で。しかもなんだこの帽子。赤ちゃんが被りそうな真っ白の毛糸の帽子。
「アメリカでは流行ってるんだよ」
嘘くさい。流行遅れだろ。仕方ないから着替えて、学校から一番近い駅前あたりを探すことにした。
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