第10話

「今日はここにしよう?」


「私まだ給料日じゃないんだけど」


「僕の都合で先週会えなかったから、奢らせて」


「は?なんでそうなるわけ?」


「行こうか」


勝手に決めるんだから…。


「あんた個室好きね」


「焼肉は個室がいいもんね」


「そうなの?」


さっさと注文した秋人。段取りがいいんだから。


「さてと、お肉焼きまーす」


「あんたできるの?」


「任せて!家事とか得意」


「変なの。坊ちゃんじゃないじゃん」


「自分のことは自分でできないとね?はい、遥」


なんで私がやってもらってんのよ!なんかむかつく。


「私も焼く」


「うん」


「あんたスーツが臭くなるよ?いいの?」


「あー。うん、しょうがない」


「着替えてきたらよかったのに」


「そのまま来ちゃった」


「ったく。はい、焼けた」


「ありがとう。では、頂きます」


変に行儀正しい。


「うん、美味しい」


「私の焼き加減は完璧だし」


「うん!ねぇ、遥?ボクシングジムは勤めて長い?」


「まぁ…そうかも」


「みんなから信頼されてるみたいだったから。遥はさすがだね」


「…」


「お肉まだ焼こうか?」


「…私、元ボクサーって言ったでしょ?」


「うん」


「ボクサー夢見てただけ。アマチュアだったし…。ケガしたから辞めた、諦めた」


「そうだったんだ」


「あんたはさ、失敗したことないでしょ?いつも偉そうだし」


「うーん、そうだなぁ。僕も失敗してるよ」


「ほんとに?」


「うん。僕は家族と過ごしたことがあまりなくて、普通のことっていうのがわからない。小学生の頃、弟と2人で住んでるって友人に話したら、金持ちなのにおかしいって。それが親御さんまで伝わって、別宅まで持ってるのかと思われて、嫌がらせに聞こえたみたい」


「なんで2人暮らし?」


「お手伝いさんのいない普通の生活をさせたかった、父の教育かな?」


「嫌われた?」


「んー、金持ちレッテルを剥がすことができなくなった。金持ち前提に話されるようになって…普通の友達がなかなかできなくなったね。なんであのとき話したんだろうってね」


「めんどくさい」


「うん、弟も傷つけた。弟は優秀だけど引っ込み思案なとこあるからね」


「ってか!暗いし!肉焼くから食え!」


「遥、ありがとう」


「うるさいな」


「あ、遥…僕は…さっき見てしまったんだ」


「は?なにを?はい、肉」


「ありがとう、…遥がジムで縄跳びしてるのを高校生くらいの男子生徒がガン見してたのを」


「あぁ、縄跳び教えてたから」


「いや、目線上だったよ。あれは確実に…セクハラだよ」


「そういや、縄跳び見ないで余計なこと言ってたような?」


「いや、発言したとかだめだよ。それはセクハラだよ?訴えてもいいよ」


「いや、私はそんな気にしてない。あの子、筋肉のある女子ありえないとか言ってたし」


「ふうん。僕は心配だな。遥は優しいから、その子が遥のこと気になってるんじゃないかって」


「なんでよ。私もてないよ?」


「…遥は自覚がないけど、綺麗なんだよ?」


「うるっさい!さっさと肉食え!」


なによ!なーんの恥ずかしさもなく言って!


「うん。遥も食べなよ、ビール頼もうか?」


「頼んで。私今日はもうとことん飲んでやる!あんたのおごりでしょ?」


「うん。任せて?…すみません、ビールを1杯お願いしたいのですが」


「なにそれ、丁寧すぎ」

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