第9話

「遥さん、昨日はすみません!私…遥さんのこと知らなくて」


職場に来たら後輩にすぐに謝られた。


「なにが?さ、掃除するよ」


私がただ根に持ってるだけだもの。誰も悪くない。元ボクサーの私。


「今日は新規の方が来られるって!高校生の女の子と男の子。ボクササイズ流行りですもんねー」


「そーね」


遊び感覚、ダイエット。そんなお客様しか来ないジム。はぁ、私なにやってんだろ。


「へぇ、お姉さんすごい腹筋」


「そりゃどうも。彼女にも割れてほしいの?」


「え、ありえないし。彼女はダイエットっすよー」

「私ーちょっとお肉絞りたいなーみたいなー?」


「そう」


そういえば、秋人は私がむきむきな筋肉野郎ってこと知らないよね。キモいとか思われるかも。


金曜となった。

秋人はあれから連絡してこない。

どこで待ち合わせになるの…?


「ミット打ちやってみる?」


「うーす」


高校生の男子。力弱いし、コントロール甘いしやる気あるのかないのか。


「俺めっちゃかっけーって!」


ナルシストか!


「はい、お疲れ」


「俺まだまだものたりねーっすよ」


「じゃ、縄跳びも入れてみる?」


「うわ、あのボクサーがやってる感じに飛ぶんすか?」


「そう。飛び方教えるから。あんたもう時間少ないし、私が飛ぶから見といて」


「うーす」


「こんな感じで、10分くらい」


「うわー。きっつ」


「でも体力つくから」


「てかー、黒川さん結構胸あるんすねー」


「は?あんた飛び方見てって言ったでしょ?」


「さーせん」


「ちょっとー僕?遥さんをじろじろ見ないでくれる?」


見ていた後輩が苛立っていた。


「いで!なんで足蹴るんすか!」


「そーいう目で見る子はここに置いてあげないぞー?私の遥さんなんだから」


「うわーひでー」


「ひどくないし!あんた彼女いるでしょ?」


「あいつとは別れたし。あ、黒川さんフリーなら俺と付き合う?なーんてー?」


「…ありえない」


「うっわ怖っ!」


「そーですよ!ありえませんよね!遥さん!こんな子供じゃだめです〜」


なんなのよこいつ!全然ボクシングやる気ないじゃないの。

生徒が帰ってから、ぼけっとして片付ける後輩に声をかけた。


「さっきは余計な仕事させて悪かったわね」


「いえ。遥さんかわいいから、見とれちゃうんですよ、きっと。困りますね」


「かわいくないし」


「いや、遥さんかわいいです!それに、ボンキュッボンじゃないですか!」


「それは体型ってこと?」


「はい!上腕二頭筋ですよ!私は遥さんの筋肉好きです!」


「どうもありがとう」


ふと携帯を見ると着信が。秋人だ。

…って、話してたら20時じゃないの。


「ごめん、私帰るから」


「あ、お疲れ様でーす」


「戸締りよろしくね」


急いで階段を駆け下りたところに、秋人はいた。


「来ないでって言ったじゃん」


「あ!遥。お疲れ様」


「待ってたの?」


「ちょっと見てた」


「あっそ」


「じゃあ、お店行こうか」


なんであんたが先導するわけ?

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