第8話

「来週は会議とか忙しくて、再来週には時間があるから…そのときまた食事してもらえる?」


「いいけど」


「予定がまだ確定してないから、また連絡するよ」


「わかった」


あーあ。なーんで私はいつもあいつのペースに乗せられてんのよ!


「遥さん!みんなに言っちゃいました!子犬系彼氏のこと」


翌日、やはり後輩はこの話題をしてきた。


「彼氏じゃない」


「えー?でも名前で呼んでましたよ?」


「勝手に呼んでるだけ。高校の体育祭の委員してたやつよ」


「あー。遥さんがよく手伝ってるやつだ!なーんだ」


あっさり引き下がった。のでほっとこう。


「あのー。黒川さんって、子犬系彼氏がいるって本当ですか?」


休憩中なのか、週3で通ってるサラリーマン風のやつに話しかけられた。


「違うけど。勘違い」


「あ、やっぱそうなんですね。いやぁ、黒川さんって男みたいだから、男と付き合うイメージとか全くなくて。ありえない噂だなと思って」


「あっそ。悪かったわね」


「いや、すみません」


どーせ、私なんか女子力のかけらもないんだから!


一週間。今週は秋人との約束はない。暇だし、1人サンドバックを打つ。


「遥さん、フォームすっごくキレーです」


後輩は私のフォームを熱心に見てる。

この子、やる気はあるのよね。ボクシングもすごい好きだし。


「そう?普通だけど」


「そりゃ、黒川さんは海外目指してたから違うよ、知らねぇの?」


男のインストラクターは、私の昔を知ってるみたいだ。あの野郎履歴書見たか?


「…じゃ、私帰るから」


「…あ、遥さん!ちょっと!」


どうせ無理なのよ。海外目指しても…私はもうできない。


帰り道、あまり鳴らない携帯が鳴った。

秋人だ。


「なに?」


「遥、今大丈夫?」


「うん、なに?」


「来週の金曜19時以降になるけど、会えるかな?」


「いいけど」


「よかった。…遥の声を聞けて嬉しい」


「あんたまだ仕事してんの?」


「うん、明日も会議」


「忙しそう。ご飯とか食べる暇あるわけ?」


「うん、なんとか。心配してくれてありがとう。遥も体調には気をつけてね」


子犬系なの?こいつ?

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