第2話

体育祭の話し合いは着々と進み、設営の段階にまできた。


「はー、テントとか…疲れる」


「僕も体力ないから…これは大変だよ」


テントを倉庫から出すだけで一苦労。さらに、組み立てとか。


「ちょっと1年、テントもろくに立てられないわけ?」


うわ、怖っ!

卒業生の人だ…。噂によると、女子の元ボクサーとか。怖い女子とか苦手だ。一緒にいた他の1年もびびってるはず。


「す、すみま」

「はい、初めてなもので」


「は?ありえないんだけど」


「すみませんが、教えて頂けますか?」


「ったく、なんでこんなのもできないわけ?」


細川すげー。怖い人に動じない。更に手伝わせた!そんなわけで、なんやかんや教えてもらった。


「要領わかった?」


「はい、体力さえあれば簡単なことなんですが…」


「あんた痩せてるし筋肉ないからね」


「私、細川秋人ほそかわあきとと申します。名前を名乗らずすみません」


「は?あんたが細川?なーんか皆が噂してた金持ちのボンボン?」


「そうですね」


「ふーん、なんかイメージと違う。弱そうだし偉そうじゃない。てか堅苦しい喋り方やめてよね」


「あ、はい。あなたのお名前を教えて頂けますか?」


「私?黒川くろかわだけど」


「下のお名前は?」


はるか


「素敵な名前ですね。漢字は遥か彼方の…」


「そうだけど、あんた漢字好きなの?」


ちげーよ。細川は、たらしやろうなんだよ。そうやって無意識に癖で聞いてんだ。


「はい、勉学に励んでいるので」


「あっそ、…テント完成したし、あんたたち休憩しな」


「はい。早川、今何時か分かる?」


「おい、時計どうしたよ」


「いやぁ、それが教室に置き忘れて」


「盗まれてたら盗難届け出せよ?お前の高そうだし。えーっと17時」


「あ、うっかりしてた。まだ待ってるかもしれないから行ってくるよ」


まーたデートか!


「なにあいつ。用事あったの?」


「いや、デートです」


「なにそれ、彼女いるってこと?」


「彼女はいないけど、デートは多いです。毎日のように」


「は?どういうこと?」


「いろんな女子と付き合ってます」


「なにそれ、頭おかしくない?」


「…モテるんで、あいつ」


「は?どこがいいわけ?」


「あいつ、細川グループの次期社長で…しかも金持ち。さらに、天然のたらしで」


「ふーん、どうでもいい」


俺に聞くなよ!悲しくなるわ!

そうこうしてるうちに、細川は10分程で帰ってきた。恐ろしい元ボクサーさんはもういない。


「おい、細川。お前早いな」


「休憩時間はまだ終わってない?」


「終わってないというか、勝手に休憩してるから関係ねーよ」


「じゃあよかった。次の作業はなにかな?」


「あー、石拾ったら帰れってさ」


「わかった。他の作業は明日だね」


「細川、明日は組み体操の練習もあるぞー」


「そっか」


俺苦手。細川も苦手らしい。


次の日は朝から練習。明日体育祭だというのに、今更かよって感じ。まぁ、中学のときは用意されたのをこなしてただけだけど。

進行からなにからなにまで、生徒が仕切る。先生たちは客同然だ。もちろん、細川は進行係りになっていてその辺にはいない。俺は、地味な旗係りに…。


「細川ー秋人ーどこだー」


もうすぐ組み体操があるので本部に探しに行った。


「早川、お疲れ様」


「お前忙しそうだな。組み体操で倒れんなよ?」


「なんで僕が1番上なんだろうね。身長低い人と同じクラスがよかったよ」


「チビのがもてるんじゃないの?」


「好きでこの身長じゃないよ」


コンプレックスの身長。でもお前には武器だ。かわいいー守ってあげたーい。とかね。


「皆、僕は…なんとか頑張るよ」


「細川、貧血だったら倒れていいから」

「無理はすんなよ」


ふっ、あいつの働きっぷりを見て、同じ委員の奴らは細川に優しいじゃん。

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