第27話 新メンバー追加

 翌早朝。

 オレたちは一度店を完全にたたみ、すべての資産を持ち帰った。


 戻って仮眠を取ると、すぐさま準備に取りかかる。

 昨日までの疲労はどこかへ吹っ飛び、眠気も無い。


 ノエリアにヒーリングをかけてもらってはいるが、それ以上にモチベーションが大きな影響を与えている。不安が完全に払拭されたわけではないが、クリスティーの言うとおり、やるかやらないかではなく、やるしかないのだ。


 宿を出ると、獅子とノエリアはギバー商事に装備を調達しに出かけた。

 オレとアナとクリスティーはギルドに向かい、クエストを発注するための依頼書を発行する。


 これは人材を採用するためだ。

 コミュニティのメンバーを中心にパーティを組むつもりだが、一般からも受け付けておく。


 クエスト内容や報酬・待遇などを明記し、掲示板に貼りだしておいた。

 応募期限は、緊急を要するため今日の午前中までとする。

 報酬は相場よりも高めにしておいた。


 その間にアナとクリスティーがギルド内で待機していたメンバーに号令をかけ、依頼書と同様にクエストの内容などを説明する。


「このクエストはボクたちにとって、冒険者としての初仕事になる。なにがなんでも達成したい。協力してくれる人がいたらぜひ参加してほしい」


 アナが呼びかけるとみんな一様に顔を見合わせた。

 突然のクエスト発注に戸惑っているのだろう。

 まだ魔法が発動していない者が多数なのだから無理もない。


 鉱山の地下に水脈があることも初めて知ったようだ。

 やはり世間では知られていない情報なのだ。


「あの、質問しても?」真面目そうな黒髪の少年が手をあげた。

「もちろん」

「クエスト内容は、ダンジョンを攻略して水を掘り当てるってことでいいんだよね? 魔法の修行を中断していきなり実践はきついと思うんだけど、ボクたちでも攻略できる難易度なの? モンスターの存在は?」

「分からない。途中にどんな危険があるかも想像がつかない。モンスターもいるかどうかわからないけど、覚悟はしておいた方がいい」


「じゃあ、ボクは行かない。実戦経験も無いのに、どんなモンスターとエンカウントするかも分からないんじゃ初見殺しもいいところだ」

「未知や未開を探求する。それが冒険者の本懐でしょう?」

「ボクは魔法を使えるようになりたくてコミュニティに参加したんだ。修行が続けられないなら抜けさせてもらうよ」

「修行ばかり続けてどうするの? いつかは冒険に出かけなくちゃいけないし、実践の中で魔法が発動するかもしれない。レベルアップのチャンスだし、絶好のタイミングなんだよ」


「レベルアップしなかったら死ぬかもしれないし、しても死ぬかもしれない。しかもタイミングっていうのはキミたちの都合でしょう?」

「それはそうかもだけど……」

「悪いけど、どうするかは自分で決めさせてもらうよ。コミュニティにそこまで制限される筋合いはないし」


 アナの説得に応じることなく少年は去っていった。

 それを皮切りに、ほかのメンバーが口々に不満を露わにする。


「安全が保証されてないんじゃ、参加なんてできるわけないわよね」

「とりあえずダンジョン全ルートマッピングよろしく~」

「あーあ、こんなことになるなら最初からバグさんの店で魔石を買えばよかった」


 そんなセリフを残して半数が離脱した。

 実戦経験ゼロで不安になる気持ちは分かるし、以前のオレなら言いかねない言葉の数々だ。ビギナーの多くが脱落する理由は結局ここだろう。


 つまり、最初の一歩が踏み出せないのである。


 安心・安全な冒険ってなんだろう? 

 危険を冒すから冒険だというのに。


 残った半数も自分で決められずに留まっているだけではないのか。

 アナは小さく鼻から息を漏らし、それから笑顔をつくった。


「残念だけど仕方がない。ボクたちも急ぎすぎたようだね。無理を言ってごめんなさい。それでも、ボクはビギナー仲間として、キミたちのレベルアップを心から願うよ。出発は今日の昼過ぎになる。もし我こそはという人がいたら店まで来てほしい。ほかの誰のためでもない、自分自身のために冒険しよう。それじゃあね」


 アナが踵を返し、ギルドから出ていく。

 クリスティーはなにかを言いたげにメンバーを睨みつける。

 だが、大きく鼻息を漏らすと、すぐさまアナの後を追う。


 オレもギルドを後にし、鉱山へ向かった。

 先に来ていた獅子とノエリアとダンジョン入り口前で合流する。

 そこで互いに情報を交換しあった。

 オレは、コミュニティのメンバーの参加は期待できそうにないことと、一般からの応募も昼まで受け付けていることを話した。


「ワタシたちの方は、ダンジョン攻略に向けて装備や道具を一式そろえといたわ」


 獅子が店の裏手を指差す。

 そこには新しいリヤカーがあった。

 商品の運搬用とは違い、かなり頑丈にできている。

 ダンジョン攻略時に使えるタイプらしい。

 大勢で潜るときには物資の運搬の問題もあるのだ。


 リヤカーになにが積まれているのか確認すると、これまで扱ったことのない道具類がいくつもあった。魔石のほかにたいまつがあるのは、各自で灯りを確保できるようにするためだろう。野営用のテントも、攻略するまで時間を要することを想定している。


 本格的な剣や防具などは自分に扱えるか心配だが、未知のダンジョンに潜るのだから携帯しておいた方がいい。どれも多めに用意されているのは新メンバーの参加を期待してのことだろう。


「食料は穂村が管理してや」

「分かった」


 リヤカー内の水と食料の量を確認する。

 現状のパーティであれば、およそ1週間分くらいにはなりそうだ。

 干し肉など保存の利くものがたくさん用意されている。

 果物などは消費するペースを考えておかなくては。


「ほな昼まで待って出発しよか」


 オレたちは思い思いに時間を過ごす。

 バグの店はあいかわらず繁盛していた。

 無事にクエストを達成したとして、そのころにはもうオレたちの店なんて忘れ去られているのではないか。そんな不安がよぎる。


 だが獅子は、バグの店は長くは続かないと言っていた。

 オレにはとてもそうは思えないが、気にしても仕方がない。

 今は目の前のクエストに集中しなければ。


 太陽が一番高い位置に昇った。

 獅子が腰を上げ、号令をかける。


「時間や。行こか」

「やっぱり誰も来なかったわね」ノエリアがため息をつきながら立ち上がる。

「仕方ないさ、オレたち5人でなんとか攻略しよう」


 オレはみんなを鼓舞するように言った。

 しかし本心は自分を奮い立たせるためである。

 率先してリヤカーを引こうと手にかけたところで後ろから声がした。


「待って。ワタシも参加させて」


 現れたのはおさげの少女と筋骨隆々の大男だった。

 少女の方は見覚えがある。

 コミュニティにいた子だ。

 その顔を見てクリスティーが飛び跳ねた。


「ティーファ、来てくれたのね!」

「まだ魔法が発現していないから、力になれるかわからないけど……それでもパーティに加えてくれる?」

「もちろんよ。ワタシと一緒にレベルアップしましょう!」


 クリスティーはティーファの手を取り、歓迎した。

 元々旧知の仲だったらしい。

 そういえば最初に出会ったときクリスティーと一緒にいた子だと思い出した。


「オレも参加させてもらう」


 後ろに立っていた大男が言った。

 こちらは一般からの応募だろう。

 コミュニティのメンバーではなく、初対面だ。


 近くで見るとかなりでかい。

 2メートル近くはあるだろうか。

 腰に携えている剣もオレの身長より長いのではないか。


「リーダーはどいつだ?」大男がきいた。

「ワタシや」獅子が片手をあげた。「名前は?」

「バフェッツだ。アンタ若いな」

「年下の上司はイヤか?」

「問題ない。用心棒をしながらいろんなパーティと渡り歩いてきたが、なかには10歳のボスもいた」

「それはすごいな。一度会ってみたいもんや」


「魔法は使えないが力には自信がある。雇ってもらえるか?」

「もちろんや。ワタシらのパーティは見てのとおり、戦士タイプがおらん。前衛でタンク役を務めてくれるとうれしい」

「報酬を上乗せしてくれれば」

「まずは募集条件の上限を前払いで渡したる。あとは働き次第やな」

「それでかまわない」


 バフェッツが片手を差し出した。

 握手ではなく、お金を受け取るためだ。

 がめついヤツだなと内心イヤな気持ちになった。

 口数も少なく、見た目の厳つさも相まって近寄りがたい。

 お金にシビアなのは、一匹狼的な性格だからだろうか。

 いろんなパーティに雇われてきたのなら、もう少し愛嬌というか、コミュ力があってもよさそうなものだが。


「寡黙でお金にきっちりしとるヤツの方が信頼できるわ」獅子が言った。「余計なおべっか使わんでもきっちり仕事してこられたってことやろう」

「人はすぐ人を裏切る。だがお金は裏切らない。それだけだ」

「なかなか苦労して来とるようやな。まあ、ええわ。そしたらパーティに登録しよか」


 ノエリアが魔石を取り出し、ティーファとバフェッツをパーティメンバーに加える。これでパーティは7名となった。


 いよいよ水脈探索に乗り出す。

 温泉を求めてダンジョンに潜った。

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