第三章 競合と新クエスト
第23話 競合他社出現
会議を終えた翌日。
オレは、獅子を置いて鉱山に向かった。
獅子はギバー商事にて人材や販路の問題、それから水源についての情報をロバートと話し合うことになっている。今や彼がいなくても通常業務に支障は出ない。オレも後任を見つけないとと思ってはいるが、それは当面先送りになりそうだ。
鉱山に着くといつもの場所で開店の準備に取りかかる。
だが、いつもと様子が異なることに気がつき、手を止めた。
喧騒が聞こえ、人だかりができている。
もう客が集まっているのかと思ったが、オレたちの店の前ではない。
ダンジョンの入口を挟んで反対側に集まっている。
1ヶ所を囲むようにみんな背を向けていた。
人だかりの上部にはテントの屋根がみえる。
「サーカスでも来てるのかしら?」ノエリアが言った。
「こんな場所に?」
「うーん……興行にしてはテントが小さいし、3つもあるのは変よね」
「ちょっと覗いてみるか」
人ゴミをかき分け、みんなが注目している先を目指す。
先頭に出るとテントの入り口があった。
正面は大きく解放されていて両隣に看板も掲げられている。
看板には『安さの殿堂・新製品が安い』などと表記されていた。
さらに、メガホンを持った呼び込みが派手な服を着て大声を張り上げている。
「いらっしゃい、いらっしゃい!」
「お買い得品がそろってるよ!」
「今日は大特価だ!」
「そこのお兄さん、冒険者だろう。これなんかどうだい?」
呼び込みの男に手を引っ張られた。
誰のことかと思えばオレに言っているらしい。
つるはしを手に軽いだとか丈夫だとか捲し立てられた。
スペックは、オレたちの店で扱っているモノと同じなので承知している。
問題は、彼らがここで何をしているのかだ。
聞くまでもないが、それでも言葉にして確認した。
「これ、ここで売ってるのか?」
「そうだよ。今日から新装開店だ。ほら、そこの張り紙にも書いてあるだろう」
指された方を見るとテントの壁にポスターやチラシなんかが貼られている。
そこには『本日新装開店記念!』とデカデカと謳われていた。
どうやら競合が現れてしまったようだ。
これで独占市場ではなくなってしまった。
だが文句を言う筋合いはない。
べつにオレたちの専売特許というわけではないのだ。
それでもライバルがどんなお店なのかは気になる。
売っている商品やサービスの調査をしなければならない。
パッと見はやはり魔石の採掘に必要な道具類を販売していそうだが……ポスターにもつるはしなどの道具類や食料品などが紹介されており、価格も表示されている。
「このつるはしが1本50ペソンだと!?」
「そうだよ。安いだろう」
安い。
オレたちが200ペソンで売っている商品だ。
ほぼ仕入れ値か、下手をすると原価を割っているのではないか。
ほかの商品も価格を見比べる。
多くの商品がオレたちの売っているモノと被っているうえ、どれもオレたちの店の半額以下だ。なぜこんな値段で売れるのだろう。
「いやあ、食った食った」
隣のテントから顔見知りの男が現れた。
うちの常連だ。
腹を抑えて満足そうに楊枝を咥えている。
「おはよう。やけに上機嫌じゃないか」
「お、おお。ホムラじゃねえか」
声をかけると男は気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「どうしたんだ、こんなところで。店の支度は良いのかい?」
「そうしようと思ってたところなんだが、人だかりができてるのが見えて気になって寄ってみたんだ。アンタはここで何をしてたんだ?」
「何って、ちょいと朝飯をな。ホムラも食べてみろよ」
男はあごをしゃくりあげ、店の奥に視線を投じた。
「それじゃあオレはダンジョンに潜ってくるわ」
そそくさとテントを後にする男を尻目に、オレはテントの奥を覗く。
そこにはいくつもテーブルが並んでおり、大勢の冒険者が食卓を囲っていた。
「ちょっと偵察してくる」
「じゃあ、ワタシはこっちのテントを」
「ボクたちは残りのテントを見てくるよ」
オレは食事をしているテントを、ノエリアは道具類を販売しているテントを、アナとクリスティーは残りのテントを調査しに行くことにした。
3人と分かれると、オレはテントに入る。
なかはいろんなにおいが充満していた。
食欲を刺激する香りではある。
テーブルの間を進みながらみんなが食べているモノを確認していく。
肉に魚。
それからパンにスープか……。
こちらのラインナップもオレたちの店と似ている。
しかも、1品ごとの量が、オレが大盛で提供しているメニューよりも多そうだ。
酒も朝から提供しているようだ。
さきほどの常連もすでに酔っぱらっていた。
「いらっしゃい!」ウェイターが威勢良く声をかけてきた。「兄ちゃんオーダーは?」
「あ、じゃあ、スープを1つ」
ふらつくように席に座り込み、適当に注文した。
ぼうっとしていて値段を見ずに頼んでしまった。
慌ててメニューを探し、値段を確認する。
どれも安い。
オレたちの店の半額程度だ。
スープが運ばれてきた。
これも大盛りかと見紛うボリュームだ。
働き盛りの冒険者たちの胃袋をじゅうぶん満たすだろう。
だがオレはいまいち食欲をそそられない。
胃がキリキリしていることも関係ある。
それでも香りを確認し、無理やりスープを口に運んだ。
オレは顔をしかめた。
不味いわけではないが、美味くもない。
魚介系でダシを取っているようだが生臭さが残っている。
味も香辛料でごまかしているのではないか。
やたらと辛いし脂分がくどい。
満腹感はあるが胃がもたれそうだ。
ほかの料理も見た目は映えるが、濃い味付けでごまかしているだけではないのか。
しかし、周りの客はそれをよろこんで食べている。
満足できないのはオレだけなのだろうか……?
ひと口だけでスープを残し、お金を払って席を立った。
厨房がどうなっているのか気になったが、客席からは見えない位置にあるようだ。
仕方なくテントを後にする。
はてさて、どうしたものか……。
思案しながら歩いていると出口付近でノエリアと合流した。
「そっちはどうだった?」ノエリアがきいた。
「料理を食べた。味はともかく、安くて量が多いな」
「つるはしやバケツ、他の装備品なんかもすごく安いわよね。こんな価格でやっていけるのかしら?」
「今日だけのセールだといいんだが……」
多くの商品がオレたちの店と被っているし、価格では勝負にならない。
道具類などは差別化しようがないし、厳しいのではないか。
料理の味は負けていないと思うが、選ぶのはお客だ。
「ホムラ、ノエリア。こっちも大変だよ。来て!」
アナとクリスティーも戻ってきた。
2人とも顔が青ざめている。
手を引っ張られ、最後のテントに入る。
なかは中央が一段高くなっている。
丸い舞台が設置されているようだ。
ひときわ多くの冒険者が群れをなしてその舞台の上を注視している。
そこには石が大量に山積みされていた。
おそらく採掘した石だろう。
「これ……もしかして全部魔石か?」
「そうみたい」アナが答えた。「しかも、ただ売ってるわけじゃないみたいなんだ」
「どういうことだ?」
「またすぐに始まると思う。見てて」
バナナの叩き売りみたいなパフォーマンスでもあるのだろうか?
しばらくすると1人の男が姿を見せた。
男は恰幅が良く、目つきが悪い。
オレたちがよく知る人物だった。
「アイツ、バグじゃないか」
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