第11話 最強

我が社のお局様である金森さんと、私と、後輩のイケメン荒磯くんの3人が企画の仕事で一緒になったので、帰りに飲みに行くことになった。


お局様の行きつけの居酒屋さんで、良い感じにひなびた、お酒はぬるめの燗でいい、つまみは炙ったイカでいい、的なお店だった。


ジョッキのビールを飲み干したお局様が、

「私、最近涙もろくなってさ、韓国ドラマもそうだけど、ドラえもん観てても泣けてきたりするのよ」


「ドラえもん泣けますよね」

私はまたボールを置きにいった。

お局様と揉めたくない。


でも荒磯くんはその端正な顔立ちで、やはりジョッキを飲み干して言った。


「ドラえもんで泣けるって意外ですね。金森さん、仕事では血も涙もないですもんね」


『血も涙もない』

荒磯くんが取り返しのつかないことを言ってしまいました。


彼は血も涙もないを、仕事に対して厳しくて真面目だと、良い意味で言ったと思われる。


だから言った後も笑顔でいる。


でも、

『血も涙もない』だ。


良い意味で伝わるわけないし、

そもそもこの言葉に良い意味なんて含まれてない。


お局様の表情がピクッとした。

が、荒磯くんは続けて、

「光陰矢のごとしですよ」


この者は何を言っておるのだ。

お局様が歳を取ったせいで涙もろくなったと言っているのか?


バカなのか?荒磯くんは今夜はバカで攻めようと決めたのか?


するとお局様が、ふっと笑って、

「ほんと光陰矢のごとしよ。あっという間にこの歳だからね。荒磯くんも気をつけなよ」

と、荒磯くんの端正な顔立ちを、赤らんだ頬をして見つめた。


歳下のイケメンは最強だと思った。

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