第10話 おじいさん傘
会社帰りにコンビニに寄った。
雨は既に上がっていて、私は傘立てに傘を差した。
青い色の、私にとっては高価な傘で、お気に入りだった。
私は晩ご飯のお弁当とサラダを買って、
扉を開けて、傘立てから青い傘を取って、歩き出した。
が、しばらく歩いているうちに、手にしてる傘の柄(え)の部分に違和感があった。なんだか太くて、ちょっとざらついてる気がする。
私は傘全体を見てみた。
青い傘だけれど、なんだかくたびれていて、骨も曲がっていて、もう既に何年も使われてるような傘だった。
私のは買ったばかりだ。
私の傘ではない。
私はすぐにコンビニに戻ったが、私の傘はもう残っていなかった。私が間違えて持って行ってしまったので、この傘の持ち主が、私の傘を持って行ったのだろう。
取り返しのつかないことをしてしまいました。
私が悪いのだ。でもモチベは下がる。
買ったばかりのお気に入りの青い傘。
ピチピチのイケメンが、
一瞬でおじいさんになったような、
横浜流星さんが、一瞬で海原はるか師匠になったような、
そんな私の青い傘。
私はその『おじいさん傘』の柄を手に持って、
まるで祖父と手をつないで歩くように家に帰った。
ちっちゃい頃、おじいちゃんといつも手をつないで歩いた。
時々、親に内緒でお菓子を買ってくれた。
ざらざらしたその傘の柄の感触が、
おじいちゃんの手を思わせた。
おじいちゃんも亡くなって数年経つ。
おじいちゃん、一緒におうちに帰ろう。
モチベが下がるなんて言ってごめんね。
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