2
宙に浮かぶ二人は異様な出立ちだった。
歳は……中学生くらいか。
暗く沈んだ廊下の中でも目立つ、真っ白な肌。
ボロボロの黒い布をわずかばかり身にまとった姿で、メイクと髪型は違うものの、顔は瓜ふたつだ。
双子なのだろうか。
ピアスだらけの耳、骸骨を連想させるメイクが施された目元、黒塗りの唇。
首元や指にはジャラジャラと大量のアクセサリー。
肉付きの薄い白い腹部にはわざとらしい縫い傷。
(うわ、パンツ見えそう)
ボロボロの布と言ったが、おそらく意図的に作られた、そういうデザインの服だ。
かろうじて見えてはいけないところは見えていないが、かなり危なっかしい。
少女のほうなど、下胸のうっすらとした膨らみや足の付け根が見えてしまっている。
どういうファッションセンスだ。
露出狂?
それともゴシックファッションってやつ?
「って、それどころじゃねぇだろ、俺!」
宙に浮いてるってなんだよ!
ワイヤー? カッパーフィールド?
「人払いにルーンを刻んだはずなのにね、ザイオン」
「耐性があるのか、単純に鈍感なんだろうね、ヴァネッサ姉さん」
あ、これやばい。
漫画とかで見たことある。
多分、見られたからは生かして返すわけにはいかないとか、そういうアレだ。
足元には昏倒している少女。
一人なら逃げられる可能性は高まる。
でも――置いていくのか? コレ。
「お、おい!起きろ!」
考えるまでもなく、俺は女生徒を呼び起こす。
浮かんでる双子(仮)から目を離すのはヤバい気がするので、悪いけれど軽く蹴らせてもらう。
「起きろって!」
一瞬だけ目を離し、まわりを見回す。
武器になりそうなものはなし。
くそ、なんでもいい。何か武器はないのか。
モップでも箒でも何でもいい、棒状のものはないか?
思い出せ。
階段。
登りきったところ。
すぐ後ろには……掃除用のロッカー!
後ろ手にロッカーを漁り、なんだこれ? 箒だった(T字になっているやつだ)。 正眼に構える。
半年前にやめてしまった剣道だが、それでも10年以上続けてきたのは無駄じゃないと信じたい。
試合以外の実戦ははじめてだが……ビビるな俺!
宙に浮いてるわけのわからんやつらだが、棒で殴られて平気ってことはないだろ。
「姉さん、あの人やる気みたいだよ」
「本当ね、ザイオン。無駄なのに」
「バカみたいだね」
「バカなんでしょうね」
クスクス笑いながら、双子は見下すような目つきで、こちらをゆっくりと指差した。
まるで聖歌隊が讃美歌を歌うみたいに、そろって口を開く。
「「▖▗▘▛▝▚▞▙▛▜▗▜▗▟▖▗▘▝▚▞▙▛▜▟」」
ショキン、とやけに高い音がして、手に持った箒が軽くなった。
「へ?」
握る手のすぐ上で、綺麗に切断されていた。
「ひ、ひょえええ!!」
腰を抜かしてひっくり返り、自分でもどうかと思うくらい間抜けな悲鳴を上げた。
武器としては役に立ちそうもなくなった箒の柄を投げ捨てようとして失敗する。
恐怖のあまり手を開くことができなくなっている。我ながら、なんて無様なんだ。
それでも。
「おい!お前、起きろって!!」
震えるもう片方の手で女生徒の服を必死につかむ。
「う、うぅ……」
引っ張られて苦しかったのか、女生徒がうめき声をあげるが、気にしている場合でもない。
幸いここは階段を登りきったところだ。
双子は廊下の少し先にプカプカ浮いている(そんな可愛い雰囲気ではないけれど)。
抜けた足腰に気合を入れて、女生徒を引っ張って、階段側へ逃げる。
双子からの死角に入った。
「逃げるみたいだよ、姉さん」
「あら素敵。追いかけっこは大好きよ」
「殺すより?」
「殺すよりも、苦痛を与える方が好きよ」
「同じだね、ヴァネッサ姉さん」
「同じね、ザイオン」
何、この物騒な会話。
「冗談じゃねぇ!」
さっきまで腰が抜けてしまっていたが、一度動かせるとそれなりに力が入るようになった。
「どっせぇい!!」
女生徒を肩に担ぐ。
なにこれ、やわこくて軽い。
階段を駆け下りる。
華奢とはいえ人を担いでいるのに、俺の足はいつも通りに動く。
これアレだ、火事場の馬鹿力とか、アドレナリンがどうとか、そういうやつだ。
一瞬、明日は筋肉痛で死ぬんだろうなとかバカなことを考える。
いや、それ以前に明日を無事に迎えられるかどうかわからん状態なのだが。
むしろ来い。筋肉痛で苦しむ明日よ来い。
双子がどういう存在なのか、そういった疑問は全部後回し。
とりあえず今は逃げろ。
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