裏の世界に生きるもの

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裏の世界に生きるもの

「ねぇ、また遊ぼ!」

その声に僕は思わず振り向いた。

彼女は笑顔で僕に手を振っていた。

それは僕がこの街に来て初めて笑った瞬間でもあった。

だけど僕はその笑顔を見る事はなかった。

僕の前には大量の死体があったからである。

そう、全て僕のせいだ......

あの日、一人逃げ遅れた女の子を見つけたのだ。

僕は助けようとしたが結局助けられなかった...

そんな自分に嫌気がさして街を飛び出したのだ。

だが、行く宛などどこにもない。あるとしたらこの世界の裏の世界しかないだろう。だから僕はそこに入ったんだ。そこは血の匂いと腐敗の匂いが蔓延していた。

最初は吐いたり気絶したりしていたが今では慣れてしまった。

ただ一つ救いがあるというのなら、ここは人が少ないのであまり顔を見られなかったという事だ。

でも今は違う。

「やぁ~また会えたね! もしかして私に会いに来てくれたのかな?」

彼女が居るからだ。

「あ、あぁ...」

「そっか、嬉しいな」

そう言うと彼女は僕の腕に抱きついてきた。

柔らかい感触に意識が持っていかれそうになるが我慢するしかなかった。]

「ねぇ、君はどうしてここに入ってきたの? 私は君なら大歓迎だよ?」

彼女の問いにすぐに答えることが出来なかった。だって、答えなんて無いのだから。「うふふ、ごめんねいきなりこんな質問しちゃって」

彼女は笑いながら言った。だが僕にはそれが何故か気に入らなかった。

まるで心を見透かされているような感じがして怖かったのだ。

「別にいいだろそんな事ぐらい......」

「むぅーなんで怒るのさー」

頬を膨らませて怒っていた彼女に僕は何も言い返せなくなっていた。

「...じゃあ私が君の質問に答えてあげるよ。えっと君は確か......名前はなんて言うんだっけ?」

「......」

「え、知らないでここまで来たの? それでよく裏の世界に入ろうと思ったよね...」そう言って呆れていた彼女を余所に僕は少し考える仕草をした。

(そういえば名前を考えていなかったな...)

そう思った僕はこう名乗る事にした。

「僕はマーク・キャンベル・モラン。よろしく頼むわ、レナさん」

そう言うと彼女は驚いた顔をした。

「どうして私の名前を知っているの!?」

「そりゃ、あなたが言っていた事だし知っているのは当たり前でしょうに...」

「あれ...? そうだったっけ......?」

どうやら自分が言った事を忘れてしまったらしい。

「まったくしっかりしてくれよな...」

僕が言うと彼女は笑いながら謝ってきた。

そんな彼女を見るとさっきまであった恐怖心は無くなっていた事に気がついた。

きっと僕は彼女と会って少しは前向きになれたんだと思った。

「それよりそろそろ帰らないと暗くなるわよ?」

「そうだね。僕も疲れたし帰るとするかな...」

僕は家に向かって歩き出した。 帰り道、路地を通るたびにあの時の記憶が蘇る気がした。

あの時は突然すぎて訳も分からず逃げてしまったけど次は必ずあの子を助けたいと思っていた。

だけど今の僕に出来るのだろうか、あの時みたいに誰かを助ける事ができるだろうか......

そう考えているうちに家についた。

ドアを開けると明かりがついていて中には母親が居た。]

「あらおかえりなさい。遅かったわね...ってどうしたのその怪我!?早く治療しないと!」

母親は慌てたように手当をしようとしてくるがそれを断った。

するとお母さんは怒った顔で近づいてきた。

「駄目じゃないの! そんな傷だらけで帰ってきたんだからちゃんと治さないと...」「別にいいだろ、このぐらいのケガくらいすぐ治るからさ」

そう言って部屋に行こうとしたその時、母親に手を掴まれた。

「......っ!!」

「何言ってんの!! もし本当にすぐ治るんだったらこんなに血塗れになる訳ないでしょ!!!」そう言われてようやく気がついた。

確かに自分の服には所々血がついていた事に。母親の手を離し自分の部屋へと戻った。

【3年後】

あれから僕は毎日を無気力のまま生きていた。

結局、あの後帰ってからも母とは口論が続きお互い謝ったりして仲直り出来たかと思えばまた喧嘩をしてを繰り返していた。

(やっぱり僕じゃダメなのかなぁ......)

そう思いベットの上に寝そべっていた時、突然ドアの向こうから声が聞こえた。

「ねぇちょっといいかしら?」

そう言いながら扉を開くとそこにはあの時の女の子が立っていた。

「......何の用だよ。もう金なんて持ってないから帰れよ......」

そうぶっきらぼうに伝えると女の子は少し悲しそうな顔をした。

「私ね今ここで働かせて貰っているんだけど......どうしても人が足りないらしくて...貴方の助けが必要なの......」

「............」

黙っているとさらに女の子は続けた。

「私が貴方に会いたかったっていう理由もあるんだけどね...?」

その言葉を聞いた途端、頭が真っ白になりその場で動けなくなった。

「貴方は私のこと覚えてる? 覚えてないよね......でもずっと覚えてくれていたんだね......」

「......」

何も言わずただ呆然としていた僕の手をその子は自分の手で握った。

「私はね、貴方のことが好きだったの。あの日の事だって貴方が助けてくれた事がきっかけだから......もう一度だけ会いたいなって思ってたんだよ......? それなのに貴方は私を突き放すような事を言ったの......でも私諦めなかったんだ......!」

そう言うと涙を流し始めてしまう。それを見て僕はやっと気づいた。

(そうだ......!この子は......僕が今まで会った人達の中で唯一の生き残ってくれた人だ)

そう思うと同時にこの子を守りたいと思った。

もう二度と悲しい思いをさせたくないという思いで、この子の手を掴みながら誓った。

「わかったよ。君の事は守るって約束するよ」

そういうとその子の顔は笑顔になった。その顔を見て僕も自然と笑顔になっていた。

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