3話 間に合ってよかった

能力の使い方

 信人は、李依の能力の使い方について考えていた。例えば、李依が生徒会長、僕が副会長、選挙に立候補するとして、当選するために彼女は何を願うだろう。


――私と信人にみんなが清き一票を入れてくれますように……


 って下手くそか! そんなことを願えば僕と李依は全校生徒の全票を獲得。すぐに、選挙管理委員会に疑いの目を向けられてしまう。すると、彼女はすかさずこう願うだろう。


――疑いの目をつぶってくれますように……


 怖い、怖い、怖い、そんなブラックな生徒会長が牛耳る悪の組織みたいな高校を作り出してどうする。そんな組織の頂点に君臨するなんて、妄想するだけでも心が病んでくる。そう考えると、李依の能力って使い勝手が悪いというか、意図的な使用が難しいというか。信人は、李依の能力についてはしばらく封印することにした。となると、僕の能力だけど。



「李依が7で、僕は1。何の数字だか分かる?」


 信人の出した結果がこれである。


「社会から必要とされていない順番かしら」


 相変わらず皮肉方面の頭の回転が速い李依。


「僕ワースト1ですか、てか自己評価も低!」

「私は人に厳しいけど、自分にも厳しいのよ」

「クラスで僕たちに好意をもってくれている人の数さ」

「ホント悪趣味ね。ここまでくると覗き魔だわ」


 お決まりの軽蔑の眼差しを向けてくる李依の前に信人はリストの書かれたノートを閉じたままそっと差し出した。小野君、神谷君、木村君、鈴村君、諏訪部君……迷わずノートを開き、食い入るように見つめる李依。


「覗き魔とか言ってたくせに、ずいぶん興味深々だね」

「だって気になるじゃない!」


 ノートを握る手を緩めようとしない李依。


窓際の読書美人ブックマスターだって」

「何それ?」

「彼らの中での李依のコードネーム」 


――コードネームって、私が悪の組織の頂点にでも君臨しているみたいじゃない!


 自分の提案次第でそうなっていたかと思うと、信人は素直に笑えなかった。


「何それ? 褒めてるの? それから、え――と、神坂かみさかさん?」

「あっ、それ結構本気みたいだよ」

「神坂さんって、女の子よね。これってLIKEってことでしょ?」

「いや、まじでLOVEの方みたいだよ!」

「へ――――」


 全く興味なしといった感じの返答である。裏の声すら全く聞こえてこない。


「それから番外編がもう一人」

「番外編……?」

「サッカー部の中村先輩!」

「えっ!!」


 急に声色が変わる李依。


「サッカー部キャプテン、学校一のイケメン、成績もトップクラス、全女子生徒の憧れの的……そんな中村先輩が、私のことを?」


 完全に有頂天になっている。


「ごめん、ごめん、嘘、嘘」


 谷底に突き落とされる李依。


「はっ!! あなたね――、ほんと信じられない!!」


 珍しくマジギレである。


「予想以上の反応でびっくりしたよ」


――そりゃ――私だって……中村先輩よ……先輩と1回でもいいからデートとかできたらいいのになぁ……


「李依!! それ!!」

「あっ!!」


 一瞬、言葉を失う二人。


「ぎゃああああああ――――――――――!! どうするのよ!! 願っちゃったじゃない!!」

「そうだね。しっかり願っちゃったね」

「だから、誰とも関わりたくなかったのよ!」

「今までの傾向からすると、そろそろかな。僕は席を外すから、あとで詳しく聞かせてね」


 ひとまず封印と語った舌の根の乾かぬうちに能力発動。物語が動くきっかけは、結局いつも、李依の気まぐれな一言からである。


――なんであんなに冷静なのよ! さては信人! ハメたわね!


 信人はにやにやしながら教室の後ろのドアから退室していった。それと入れ替わるように前のドアが開いた。



「高梨さん、ちょっといいかな?」


――な、な、な、中村先輩!!


 完全に舞い上がっている。


「映画に行く予定だったんだけど、急に友達が来れなくなっちゃてさ」

「……………………」


 興奮のあまり言葉がうまく頭に入って来ない。


「高梨さん、いっしょにどうかなって?」

「はい! でもなんで私なんですか?」


 ようやく返答をする李依。


「前から、気になってて……」

「えっ……?」


――もう意味が分からない!


「それで映画っていつですか?」

「それが、今日なんだよね。急過ぎて無理だよね」

「いえ、大丈夫です。私でよかったら」


 理由は何であれ李依の答えはイエスしかない。


「よかった――、それじゃ行こうか」


 急転直下の展開に頭が回っていない李依。気が付くと中村先輩に手を引かれ教室から連れ出されていた。

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