ゴッドアイ
――さっきのあれは一体何だったのかしら。信人の演技? ってことはさすがにないわよね。てか、お互い泣きながら男女が抱き合うってどういう状況よ。まぁ――さっきのはノーカンということで……
「あの角を曲がればもう僕の家なんですけど……」
いきなり口を開いた信人に、また心の声を聞かれてしまったのではないかとびくつく李依。
「へ――だから何なのよ!」
「だから――その――もう一人で歩けるというか……」
突然、歯切れが悪くなる信人。
「いいじゃない別にこのままで」
「それが――その――李依に危険が及ぶというか……僕のママがちょっと……」
「あなたのお母さんが何なのよ!」
その声の先にはすでに信人はいなかった。いつの間にか、彼は李依の5メートル先を自転車を引いて歩いていた。
「ただいま――」
「お帰りなさ――いって、信人が彼女を連れて帰ってきた――!!」
初登場からテンションMAXな信人の母である。
「ママ、違っ、この人は……」
「彼女ってことは結婚……結婚ってことは……私捨てられるのね。そして、一人寂しく……」
堪らず、口を挟む李依。
「お母さん、落ち着いて下さい」
「あなたに、お母さんと呼ばれる筋合いはない!」
テンションが下がる気配すら見せない信人の母。
「信人君とは、友達と言うか今日知り合ったばかりと言うか、そう、ただの知り合いです」
恋人ごっこタイムはいつの間にか終了していたらしい。
「高梨さん、ひどっ! 友達で良くないですか? せめてクラスメイトでお願いします」
「な――んだ、お知り合いね。だだのお知り合いさんが、何でうちの敷居を跨いでいるのかしら……」
「ママ、言い方!」
「だって……」
信人は李依の手を取り、その場から逃げ出すように自分の部屋へとかけ込んだ。
「あなたのお母さん、何て言うか、凄いわね」
「ごめん。ママ、ムスコンだから」
「ママって、あなたも充分マザコンじゃない」
「だって、ママがママって呼んで欲しいってママの心の声が」
「だって、ママ、ママって、それがマザコンなのよ!」
李依は容赦ない軽蔑のまなざしを信人に浴びせた。
「それじゃ――、そろそろ始めよっか」
「始めるって何をよ」
「作戦会議! 議題はこれからの二人について」
――二人についてって……何? まさか、この人、私のこと……
「好きです」
真剣な表情を保てず吹き出す信人。
「って、信人のそれ、フェアじゃないわよ!」
「ごめん、嘘、嘘、そうじゃなくて、本日の議題はその能力についてさ」
「一方的にこちらの声だけ聞かれてしまうって言う、そのアンフェアなやつ?」
李依は皮肉たっぷりに食ってかかった。
「そう、そう、その僕の能力と李依の願いの力があれば、二人は神にも悪魔にもなれるって話さ」
「神……悪魔……って、すごいわね! で、どんなことができるのかしら? 詳しく聞かせて!」
珍しく前のめりな姿勢を取る李依。
「それをこれから考える作戦会議だよ」
「ノープランか――い!」
振り付きでツッコミを入れる李依。
「まず、そのアンフェアだけど」
「僕の能力の名称はそれで決定ですか?」
信人の質問には無反応で話を続ける李依。
「それ、私には気安く使わないで!」
「了解、了解。なるべく気を付けるよ」
信頼性の欠片もない返事をする信人。
「それで、君の能力についてだけど……」
「うん、
――さらっと自分の能力名だけカッコ良く付けた――しかもフリガナ付きで!!
「その
「どうって?」
「定義というか、何ができて何ができないのか、まずはそれを試してみようってこと。とにかく適当に
「それって動詞にもなるのね」
「あ――喉が乾いたな――、オレンジジュースでも飲みたいな――、それからイチゴのショートケーキとかあったら最高なんだけどな――」
まるで一人芝居でも始めたような李依。予想に反してノリがいい。
「トン、トン」
突然のノックに顔を見合わせる二人。そこに、噂の信人ママが再び登場した。
「信人、ケーキ食べるでしょ。あと、ついでに、お知り合いさんも」
トレイには二人分の飲み物とイチゴのショートケーキが載っている。
「オレンジジュースでよかったかしら」
――お知り合いさんって、まだ言うか!! んっ、もう!! そんなジュースこぼれてしまえ!!
「きゃっ! ごめんなさい、お知り合いさん」
頭からジュースをまともにかぶる李依。
「お母さん、あの――、私、高梨です。お知り合いさんって! いい加減にそれ止めてもらえます? もう、友達でもいいですから!」
「高梨さんね、わかったわ。でも……あなたのお母さんではないですけどね!!」
李依もさすがに信人ママのハイテンションに慣れてきた。
「この二人怖っ! しつこっ! てか、僕が一番傷つくんですけど……」
思わぬ角度から傷を負わされる信人。
――こぼれたジュースが元通りコップに戻りますように……
李依は魔法少女が呪文でも唱えるように声に出して
「高梨さんって、頭も痛い子だったのね」
「『も』ってなんですか! 『も』って!」
李依は、突然、一番叶いそうにないことを願っていた。
――お母さんと仲良くなれますように……
「頭の痛い子に悪い子はいないわ。高梨さんとは仲良くなれそうね。よろしくお願いします」
固い握手を交わす二人。
――まさか――!! 仲良くなれた――!!
その瞬間、李依と信人の心の声が完全にリンクした。
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