第3話 理想の殿方
「ひ、姫様~~~~~~!!!!これ!お前たち!何をぼさっとしておるか!はやく姫様を追いかけるのじゃ!」
「「「は、はいっ」」」
慌てふためく爺をしりめに大きく翼を広げると一気に加速していく。
───ああ、空を飛ぶのは本当に気持ちがいい。
気分を良くしたシルビアはより一層大きく翼をはためかせる。
「くっ、ダメだっ!速すぎて追いつけない!なんて飛行速度だ」
そう、誰もシルビアに追いつくことなんてできない。もっとも大きな翼をもつ竜王の一族の飛行速度には、どんな竜人も追いつくことすらできないのだ。
「ああ、気持ちいい。ふふふ、窮屈な城暮らしなどまっぴらじゃ。このままこの世の果てまで逃げてしまおうか……」
「それは困るな……」
「え?」
バリトンの声が耳元で甘く囁いたかと思うと、翼ごと背後からそっと抱きしめられた。
「やれやれ。深窓の姫君だと思っていたが、我が姫はとんだおてんばのようだ」
ハッとして腕を振り払う。
(まさか竜人族最速の飛行速度を誇るわらわに追いついたというのか。わらわの知る限り、王族でもなければとても追いつけないはず)
「な、何者じゃ!無礼者!わらわを天空国のシルビア姫と知っての狼藉かっ!」
キッと顔を上げると、息のかかるほどの至近距離でシルビアを見つめる男と目があった。
────息を呑むほど美しいアメジストの瞳に、さらさらと艶のある漆黒の髪。そして、背にはシルビアをはるかに凌駕するほど見事な漆黒の翼。
(か、かっこいい~~~~~~~~!!!)
シルビアは息をすることも忘れ、ぽーっとその男を見つめた。無駄のない引き締まった体躯、長い手足、少し日焼けした肌は健康的で男らしい色気に溢れている。
(……ナニコレナニコレ、めっちゃかっこいい!)
高まる鼓動、体全体を駆け巡る熱い衝動。小さな胸が切なさにぎゅっと締め付けられる。
(ああ、これが、運命の恋!?)
耳まで真っ赤になったシルビアをみて、男はクスリと小さく笑った。
「姫、わたくしと一緒にまいりましょう」
「一緒に?」
ピンク一色に染まった頭でぼんやり聞き返すと、「私と一緒ではおいやですか?」と悲しそうに眉を下げる男が目に入る。
(ナニコレナニコレ、か、かわいい~~~~~~!!!)
再び痛いほどの胸のときめきに危うく窒息しそうになる。
(ああ、恋がこれほど危険なものだったとは。城の中にいたのでは決して知ることはなかったであろう。ああ、わらわは冒険の果てについに運命の人を探し当てたのじゃ!)
ずいぶん短い冒険だがそんなことは気にしない。
「そなたこそ、わらわの運命の人。わらわの目に狂いはない。そちと一緒なら喜んでどこへでも参ろう。さあ、わらわを連れて行っておくれ」
熱に浮かされたようにいうと、ようやく出会えた運命の番はシルビアの手にそっと口づけし、満面の笑みを浮かべた。
「よろこんで」
(ああ、世界の果てでも構わない。二人ならどこへでもいける。やっと出会えた運命の人……)
恭しくお姫様抱っこをされたシルビアは、大人しく最愛の番に身をゆだねる。
(父上、母上、爺、ごめんなさい。もう、城には帰らない……)
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