第4話 漆黒の勇者アレン
───と思ったのに。なぜか真っすぐ城に連れて行かれた。
「おお!姫!ようございました!突然城出するとはなんたること!爺は寿命が100年は縮みましたぞっ!まったくどいつもこいつも不甲斐ない!姫の飛行スピードに追い付けもしないとはっ!呆れましたぞ!その点さすが国一番の勇者と名高いアレン殿ですな!姫もすっかりアレン殿に心を許しているご様子。爺もようやく肩の荷がおりました」
ニコニコ顔の爺に出迎えられてそっと運命の番の顔を見る。アレン?
「姫様にあのようにすげなくされてもなお諦めず、毎回足しげく通っていたアレン殿を姫様も内心憎からず思っていたのですな。もしや二人きりでお話したかったのですか。これは爺も気が利きませんでした!いやはや、お熱いお熱い!カッカッカッ」
上機嫌な爺を前にして背中に冷や汗が落ちる。
(あ、あれ?アレンってもしかして漆黒の勇者アレン?あの、騎士団長の?公爵家嫡男の?えーっと。わらわが小さいころ一方的に婚約破棄したっていう?)
「あ、アレン?そちは、そのう……わらわの婚約者だったアレンかえ?」
「はい。姫様。ようやく私のことを思い出してくださったのですね」
相変わらずお姫様抱っこのまま、にこやかに微笑むアレン。その変わらぬ笑顔が怖い。
「の、のう、そちほどの男がどうして正体を隠して婿選びの会になど参加しておったのじゃ。正々堂々とわらわに求婚すればよいものを。さすればわらわもすぐにそちを見出したであろうに……」
大体あの武骨な鎧の下にこんなイケメンが隠れているなんて思いもしないではないか。毎回来るくせに顔も分からないし名乗りもしない変なやつだと思っていたのだ。
アレンは変わらぬ笑顔でにっこり首を傾げる。
「おや、よもやお忘れですか?幼いころ姫様より早く飛んでみせたら、『お前なんか大嫌いじゃ!もう顔もみとうない!口も利かぬ!二度とわらわの前に姿をみせるな!』と号泣したことを。おっしゃる通り姫様の前では常にフルメタルの鎧を身に付け、言葉を控え、決して姿をさらさないようにしてまいりました」
(ご、号泣……そういえばそんなことがあったような気がする。え、もしかしてわらわのせい?)
「そ、そのような幼き日の戯言を馬鹿正直に守らずとも、そのう……」
「姫様は私のたった一人の愛する人。幼いときより変わらずお慕いしております。この姿は姫様を悲しませた己自身への戒めの意味もあったのです」
無造作に投げ捨てられた兜をそっと手に取り、真っすぐシルビアを見つめて愛をささやくアレン。シルビアはあまりのことに申し訳なくて泣きたくなった。
「あ、アレン!我がままだったわらわを許してたもれ!あんなの、あんなのただの子どもの癇癪じゃ!」
「本当に?では、この姿で姫のお側に侍ることを許して頂けますか?」
「もちろんじゃ!むしろ二度とその麗しい姿を武骨な鎧兜などで隠すでないぞ!わ、わらわはそのう、そのままの姿のそなたを大変好ましく思うておるゆえ」
真っ赤になりながら言うとくすりと笑われてしまう。
「はい。全ては姫の御心のままに」
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