第10話 vsチート

目の間にいた名も知らぬ男は僕の放った光線の兆しを見てすぐに木の影に姿を眩ませた。


「なんだ? 威勢の良いこと言っといていきなり隠れてんじゃんっ」


隠れた木ごと破壊すべく光の束を放射。


「ちっ」


木の幹をまるごと消し飛ばしたものの男には当たらない。


放射寸前に違う茂みに姿を隠していたらしく、ガサガサと音を立てながら懐から取り出した小包を宙にばらまき始めた。


「っ何だこの臭い……」


ばらまかれた粉が風に乗ってその異様な臭いを周囲にばら撒いた。


おそらくさっきメムが撒いていたのと同じ……。


粉が撒かれ、しばらくするとまたモンスター達の気配が増え始めた。


ーー撒き餌か


「そんなもん撒いたところで無駄なんだよっ」


小賢しく茂みや木の陰の間を渡り、こそこそと撒き餌をばらまき続ける男めがけて特大の光線を放つ。


外れ。


だがお構いなしに二発目。


これも横っ飛びで避けられるが、


「おらぁ!」


さらに三発目。


出力を絞る代わりに即座に放射。


少し光線のタイミングをずらした三発目だったが、男の身体を捉えることは出来ない。


「避けるだけか!?」


ちょこまか動きやがって。


「グォォォッ」


そうこうしてる間にもまたモンスターが集まり始めた。


ーーモンスターと同時に仕掛けるつもりか?


一向に攻撃を仕掛けてこない男を不審に思いつつ、ひたすらに光線を放つ。


「ふぅ、ふぅ……」


「もう疲れたかのか?」


「黙ってろ腰抜けがぁ!」


口だけの雑魚が調子に乗りやがって。


「死ねっ!」


憎たらしい口に向けて特大の光線を放つ。


地面ごと削り取り、邪魔くさい茂みもまるごと消滅させる。


これでっ。


「痛っ」


太ももに走った激痛に足を抑える。


真っ直ぐに切りつけられた傷から血が流れる。


熱い、痛い。


ぎゅっと傷口近くを強く押さえつけて必死に痛みから気を逸らす。


「がぁぁぁ……」


痛い痛い痛い!


なんだこの傷は。いつ、誰が!?


いや、誰がなんて決まっている。


「てめぇぇぇ!」


顔をあげると冷めた目でナイフをくるくると弄ぶ男。

そのナイフからは真新しい血が垂れている。


すぐさま掌を向けると忌々しくもまた木の陰に身を隠す。


「卑怯者が! 隠れてないで正面から戦え!」


がさり、と正面の木の陰から音がした。


殺す。


両手を構え、二つの光線を同時に放つ。


熱を帯びた光線は近づいてきていたモンスター数体を消し飛ばし、飛び散った鮮血がびたびたと地面に降り注ぐ。


ーー今度こそっ


奴は正面の木に隠れた。

移動するにしても視界の茂みか、両隣の木の陰ぐらい。


放射を続けながら、円を描くように腕を回す。


丸の軌道を宙に描き、虱潰しに男の隠れそうな場所を潰していく。


一つ、二つ。


するとまたしても熱い鉄を押し付けられたかのような激痛。


「痛ぇぇっ!」


おかしい、いつのまに奴が。


ーー近寄る隙なんてないはずなのに


左の膝裏から流れる血……。


斬られた方向からするに後ろから攻撃してきている。


何故だ、奴が動けないように攻撃したのに。


どう見ても奴は無傷。


掠った形跡すらないのに何故僕に攻撃できる。


「くっくっ、なんとなく言いたいことはわかる。どうやって僕を攻撃してるんだ、だろ?」


そうだ。


僕は奴の動きを見逃さないように見張っていた。


何か卑怯な手段を使ったとしか。


ーーそうか、魔法だ。魔法で移動して


「馬鹿なお前に教えてやるよ、魔法じゃない」


「ウソをつけ! そんなの誰が信じる!」


そう叫ぶと男は心底おかしいと腹を抱えて笑いはじめた。


「いくら神から特殊な力を授かろうが、使い手がその程度だと俺一人殺すのもできねぇってことだ」


「……神だと」


何でこいつからそんな言葉が出てくる。


ーーまさか、コイツも転位者なのか?


「お前ら異世界人が何故チートと呼ばれる力を持っているのか、俺は知っている。それが他人から授かったものにすぎず、お前自信には何の力もないってことがなぁ!」


僕自信には何もないだと。

神から授かった力を使っているのは僕だ。


この力を使えるのは僕だけ、つまりそれは僕自信の力だ。

僕だからこの力を使える、使いこなせる。


僕がこの力を使うことで最大限に力を発揮するんだ。


この世界にやってきてから僕が何体の強力なモンスターを倒してきたと思ってる。


冒険者として僕がこなしてきた依頼だってもう相当なものだ。


こんなぽっと出てきたやつにごちゃごちゃ言われる筋合いはない。


「所詮お前はチートが使えるだけの雑魚」


「黙れ」


「そんなブンブン掌を振り回そうが怖くねーんだよ」


「黙れぇぇ!」


使い手が雑魚だと?


知ったような口を聞きやがってモブ野郎が。


今すぐてめぇを八つ裂きにしてその嘘っぱちの理論はデタラメだってことを証明してやる。


「はぁぁっ!」


光線を発射。


小癪にも奴は僕の攻撃をかがんで避け、横っ飛びで茂みに潜り込んだ。

卑怯にも奴はまだ姑息な手を使うらしい。


良いだろう、まだそんなことをしてくるなら見せてやろうじゃないか。


がさり、がさり。


草木をかき分ける音が聞こえる。


とん、とんと土を踏む音。


馬鹿め、僕だって冒険者として経験をつんでいない。


こうして神経を集中させれば位置を特定するなんて、


「造作もねぇんだよ!」


初めに潜った茂みから五歩離れた木の影。


身体を縮め、かがんでいるその位置めがけて直線に伸びる放射。


じゅっとそのあまりのエネルギーに肉の蒸発する音が聞こえる。


当たった。


手応えがあった。


「はっ、苦悶の声すら出せずに消し飛んだか!」


光が収束し、消える。


残ったのは嘘みたいに丸くくり抜かれた破壊の跡だけ。


「っ!」


しかし死体を確認しようと近寄って目に入ったのは四足だったであろうモンスターの半身だけ。


「くそっ」


「は、避けたか」


思わずその場にしゃがみこんだのはなんとなく危ないと思ったから。


するとその頭上にナイフを振りかぶった後の状態の男がしゃがむ僕を見下ろしながら嘲笑っていた。


「この」


虚仮にされている。

奴の表情、その動作全てから伝わってくる人を小馬鹿にした態度に怒りがこみ上げる。


その怒りのエネルギーをまるごとぶつけんと、空中で奴と視線があってから即座に光線を放つ。


しかし奴はひょいひょいと地面を蹴り、木を使って立体的に飛び回る。


「このっこのっこのっ」


何度も。

何度も光線を放つ。


しかしそのどれもこれもが男を捉えることが出来ず、代わりにモンスターを撃ち抜いてしまう。


「くそ、くそ!」


当たらない。

なんで当たらない。


いやそもそもなんで奴のいるところに計ったようにモンスターがいるんだ。


そうか、さっき集めてた撒き餌。


あれはモンスターを集めて俺にけしかけるわけじゃなく、自分の隠れ蓑にするために……。


「どこまで卑劣なっ」


激昂し喉から血が出そうなほど叫びながら光線を放つが、やつに当たることはない。


忌々しさに頭がおかしくなりそうになりながら僕はひたすらに茂みから茂みへ移動する男を狙い続けた。


ーー


マムロッドは奴を上手くおびき出してくれた。

戦闘の流れもおおよその想定通り。


撒き餌で集まったモンスターを巧みに使い、俺の位置を特定させない用に立ち回る。


奴の冒険者としての経験など所詮ハリボテに過ぎない。


身をひそめる俺とモンスターの違いにすら気付けないお粗末な気配探知では俺を捉えることなんて出来ない。


どうせ今までは他の仲間達に探知は任せてただあの光線を放つしかやってこなかったのだろう。


ただ用意された的に対し授かったチートを放つ。


そんなものの何が冒険者だ。


あいつは冒険者としての命のやり取りや駆け引きをしたことがない。


だからこんな単純な目くらましに引っかかる。


おまけに。


「ほらほらどしたっ」


奴の背後を取り、声を上げると奴はぜーぜーと息を切らしながら鈍い動きで目の前に構えた掌をゆっくりと俺に向けようとする。


しかしそんな亀の止まりそうな動きでは常に木を使い、上に横にと動く俺に狙いを定めることなんて出来ない。


根本的に俺とこのチート野郎では肉体的な差が大幅に存在する。


コイツがどれだけ貫通力の高い強力な攻撃をしてこようがその射程圏内に入らなければ怖くない。


加えて放つ光線はまっすぐに一本。


軌道は掌から放たれるだけで読みやすい。


使い手としてのチート野郎の動きが鈍ければ更に避けやすさは跳ね上がる。


そう、こんな冒険者になりたて……それ以下みたいな遅い動きでは戦いにならない。


冒険者としての身体づくりをせず、馬車をのりつぎ、疲れたらすぐ仲間にいたわってもらう。


貴族の遊びの延長のような冒険では命をかけた戦いのやりとりにはついていくことはできない。


「くそがぁ!」


思い通りにいかないとキレ散らかし、攻撃の精度が落ちる。


触れれば防御不可、何物の盾も意味をなさない強力無比な攻撃だろうが奴がムキになっているままなら怖くない。


戦いの駆け引き、攻撃すると見せかけて罠を張り、逃げると見せかけて不意に攻撃を仕掛けるといった攻めと守りの駆け引きがコイツには存在しない。


フェイントをかけたりすることもせず、ただ喚き散らして光線を撃つだけのこいつに、


「俺が負けるわけねぇっ」


光線の後隙を見て一気に突っ込み、振り下ろしたナイフでの攻撃が奴の右脇腹を切り裂いた。


三度目の負傷。


これまで一度たりとも怪我をしてこなかったであろうカイトはその痛みにも慣れていない。


今斬りつけた脇腹の傷の痛みに悶絶するように蹲っている。


刃物で斬りつけられたら痛い。

誰だってそうだ。


刃先が身体の表面を撫でただけでも身体は痛みを発する。


それが肉を裂き、ダラダラと大量の血が流れる深さまで斬られれば身動きも取れなくなるだろう。


しかし、戦闘の時痛みで動けなくなることがどれだけ危険なことか冒険者は知っている。


とある冒険者はモンスターに片腕を食いちぎられても歯を食いしばり、懸命にその場から逃げおおせたという。


そこまでの深手とは言わなくても冒険者なら皆、ある程度の負傷は覚悟して依頼を受けている。


痛みを堪え、常に命の危険と隣合わせ。


それでも皆冒険者として依頼をこなし、今日まで生き延びてきた。


それをこいつは侮辱した。


否、今も侮辱し続けている。


依頼を横取りし、他人の戦闘中に割り込み戦況を崩壊させ、挙げ句の果てに近場の依頼を独占し街の冒険者の食い扶持を奪う。


冒険者を舐めている奴が、冒険者を蔑ろにしている。


「痛いか? 軟弱野郎にはちょっと強く斬りつけ過ぎちまったかもな」


「お前っ……!」


「言っただろ使い手がゴミだって」


そう口にした瞬間、カイトの表情が憤怒に染まった。


「あぁぁぁぁ!」


顔をぐしゃぐしゃに歪め、耳障りな絶叫と共に発狂し始めたカイトが両手を正面に構えて光線を発射する。


ーー馬鹿の一つ覚えが


当然その攻撃の軌道は読めている。


足止めも何もなく、ただバカ正直に撃つこれまで同じ攻撃。


これでは俺は捉えられない。


軽く横っ飛びをして光線の範囲から出る。


地面を転がった直後、横を通り抜けていった二つの光の束が空間ごと焼き消す様な熱を発する。


ーーよし、もう一撃っ


ナイフを右手に握りしめた瞬間、


「ーーっ」


わずかに感じた熱。

その熱から逃れるように、カイトの元へ飛び込もとうしていた身体を方向転換。


左手に仕込んでいた投げ紐を目についた木に投げつけ、一気に手繰り寄せる。


急激に身体を曲げた衝撃で身体が軋む。


「あいつ、光線を放ったまま……」


何が起きたのかと視線をやれば、カイトが光線を撃ちながら横に跳んだ俺めがけて照準を合わせて来ていた。


「これでも避けられるかぁ!」


やばい。


掌がこちらに向いた瞬間、もう一度横に跳ぶ。


初撃は躱した、が。


「うぉぉぉぉ!」


光線を放ちながら構えた腕を動かすカイト。

横っ飛びで転がる俺めがけてじりじりと光線が迫ってくる。


着地し、間髪いれずもう一度跳ぶ。


地面を這いつくばりながら迫りくる死の光を避け続ける。


横薙ぎの光線は鬱蒼と茂っていた森を消し飛ばし、切り株のみを残す。


見晴らしの良くなり始めた森の中、荒い息を吐きながら俺は肩で息をし始めたカイトを睨みつける。


泥に塗れ、両手足が傷つこうがまだ身体は動く。


「は、ただチート使ってるだけで息切れか? 運動不足も甚だしいな、だらしねぇ」


口に入った土を吐き捨てながら、俺は行きも絶え絶えなカイトを煽る。


片膝を付き、足裏で地面を良く踏みしめながらいつでも跳べるように構えておく。


「汚らしく這いずり回ることしか出来ない虫けらがうるさいんだよ」


そう言って戦闘が始まってから初めてニヤニヤとした笑みを浮かべ、


「どうすんだ? こんだけ見晴らしが良くなって? もう隠れる所がないんじゃねえのか」


確かに腰の高さほどから大雑把に打ち込まれた光線は切るのではなく焼き消しているため、倒れた木はまるでなくあれだけ生い茂っていた草木も光線の熱量で焼けてしまった。


撒き餌で集めたモンスター達も光線に撃ち抜かれて死ぬか、焼け焦げた肉の臭いによって撒き餌の臭いが上書きされ逃げていった。


「もうすっかすかの丸見えだ、これなら」


カイトが掌をかざす。


「ほーら止めだっ!」


「ーーっ」


しかし隠れる場所がなくても奴のノロマな動きなら見てから避けれる。

掌の照準が俺に向けられたその瞬間に今まで通り横へと跳ぶ。


もはや慣れたといってもいい頬をわずかに炙る熱線を感じながら、うつ伏せの状態で地面へ倒れ込む。


ーー早く立ち上がらないと、次が来るっ


初撃を外し、血の気に染まった瞳が次の一撃を放とうと照準を構えている。


腕全体で地面を擦りながら立ち上がり、足に力を溜める。


ここでもう一度跳び、距離を詰めてもう一撃を奴の身体に叩き込んでやる。


重心を移動させ、一歩前へ足を踏み出そうとした瞬間……。


「ーーっ」


俺の意思とは反対にがくりと足から力が抜ける。


「くそっ」


ピリピリと肌がひりつく。

本能で感じる、死の気配が迫っていると。


「あぁぁぁ!」


咄嗟だった。

何かを考える前に腕が身につけていたナイフをカイトに向けて投擲していた。


「っ、苦し紛れが」


投擲したナイフをよろけながら回避したカイト。

身体のバランスを崩したことで二撃目の光線は放たれなかったものの、俺の足はまだ思うように動かない。


「ははっ、悪あがきもここまでだ」


俺が動けないでいるのを嘲笑い、カイトは再度掌をかざそうとする。


「!? なんだ、手がっ」


よろけた際、地面に手をついていたカイト。

光線を放つために掌を構えようとした瞬間に、掌が地面にくっついて動かないことに気づいた。


「く、この」


それは正確には地面ではなく地面に撒かれた液体。


「なんなんだよこの気色悪い液体はっ!」


「……ははっ」


「っ! 何がおかしい!」


罠にかかった動物のように無様に液体に身動きを封じられながらカイトが喚く。


何がおかしいか、だと。

その質問が出ること自体が俺にとってはふざけているとしか思えない。


「お前普段から、一流の冒険者がどうとか言ってたよな」


「だから、なんなんだよ」


「そのくせこの液体がなんなのかわからないのか?」


ここら一体にばらまかれている粘着質な薄緑色の液体。

これはすべてここら一体に生えていた『ボムブ』と呼ばれる植物系のモンスターから出る。


触れれば人もモンスターもあらゆる生物の足を止め、その精魂が尽きて養分になるのを待つ。


森での戦闘の多い冒険者はまずこのボムブに気をつけるよう学ぶ。


幹を傷つけたり、枝をへし折ったりボムブに危害を加えるようなことをすればその周辺に垂れ流される粘着物質は移動、戦闘、その他すべての行動の邪魔になる。


一度足を取られてしまえば、調合された専用の粉を撒かなければ脱出することすらままならず、誰かに助けてもらえるまでその場から動けなくなる。


そのためパーティーに所属していないソロの冒険者はこのモンスターに最も注意して森の中を進む。


どれだけ機動力に長けた冒険者であろうと周囲にボムブの体液が撒かれている状態では満足な戦闘は行えない。


冒険者として活動を続けるものでこのボムブの危険を怠る間抜けはいない。


だが、カイトはそんなことまるで意に介さず気をつける素振りすらなく手当たりしだいに周囲の木を破壊しまくった。


既にこの一帯にはカイトが破壊して回ったボムブの体液がばらまかれている。


「得意げに語ったところでお前もそうして無様に這いつくばることしか出来てないじゃないか。逆に僕はこうして」


地面についたままの掌から閃光が溢れる。


瞬間、寝そべったままの体勢で光線が地面へと放たれた。


液体ごと地面が消失し、拘束されていた腕が開放される。


そのままカイトは俺をーー。


「っ!? どこへ行った?」


俺を見失っている奴を視界に捉えながら、俺は突き出した奴の腕を背後から切り裂いた


「があぁぁぁぁ!」


絶叫するカイトは勢いよく出血する右腕を抑えながら悲鳴を上げる。


「な、なんで……。お前もあの変な液体で動けなくなってたはずじゃ」


「馬鹿か? 対策済みに決まってるだろ」


言いつつ俺は身体についた粉をはたき落とす。


何が起こったかわからないと動揺しているカイトが俺を見上げながら呻いている。


思ったより足にガタが来ていたが、こうして奴に一撃入れられたので良しとしよう。


策が上手くハマってくれた。


「ボムブの体液は専用の粉さえあればその粘着性を失う。こうやって全身にこすり付けておけば液体が付着しようと動けなくなることはない」


一方でカイトの左手と下半身は依然として地面へとくっついたまま。

唯一動かせる右腕は今負傷したことで動かすことができないままだらりとぶら下がっている。


完全に動きを封じた。


ーー勝った


目の前へ蹲るカイトを見下ろしながら俺はようやくこの瞬間が来たのだと、歓喜に震えていた。


この周辺の地形、ボムブの木の群生体が多く生息している場所へおびき出そうと決めたのは俺だ。


わざわざマムロッドにカイトをここへ誘い出してもらえるよう頼んだ。


撒き餌でモンスターを目くらましにすればチートの光線から逃れる確率が上がり。


カイトを監視して、奴自身の身体能力が並の冒険者以下であることを確認。

愛剣を破壊されたあの屈辱の日には不意打ちで光線を食らったが、初めから戦闘する前提で動くのなら奴の掌にさえ気をつけていればそうそう攻撃を食らうことはない。


さらにボムブの知識などこいつにはないだろうと確信していた俺は奴が見境なくチート能力を使うのを見越して、成るべくボムブから体液が漏れ出るように攻撃を誘導した。


木から木へ、茂みから木へ。


奴の光線が上手く周囲の木を傷つけるように逃げ回ってみせた。


狙い通り奴はボムブのことなど気にせず、手当たり次第に光線を撃ちまくった。


木をまるごと消されてしまっては体液も消失してしまうが、拳大の太さの光線ならばほどよくボムブに穴をあけ、地面に液体をばら撒くことが出来る。


そうして奴を粘着液に沈めるタイミングを伺っていた。


所詮は借り物の力を使って自分を強く見せていたハリボテの冒険者。


上手く嵌め込めば十分すぎるほどに勝算があった。


そして今、その策は成功した。


「終わりだな、こんな森の奥じゃ助けもこない。侍らせてたパーティーの女達はお前がこの森へ一人のこのこやってきたことを知らない」


「ーーをーーっ」


「はは、傷が痛いのか? 声が出てないぞ」


「何を、勝ち誇ってやがんだ」


カイトの全身から光が溢れ出る。


「誰が、光線は手だけから出るって言った?」


瞬く間にカイトから溢れる光がその強さを増していく。


「終わりなのはお前だ、モブ野郎っ!」


俺はその光が膨れ上がるのを見た瞬間、右手を振った。

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