第3話 unusual days③

2022年4月6日 23:00頃


僕は今、車に乗っている。先程まで殺し屋と戦闘をしていたかとは思えないような状況だ。隣には黒髪で長髪を後ろ結びした…女優のような顔をした少女に、運転席には、人あたりの良さそうな、若い男。それに車から流れているBGMは…


「この曲、何がいいのかしらね。裕二ゆうじさん、最近流行りの曲に変えてくれない?」


隣の少女、藍上琉歌は明らかに歳上であろう運転手に、まるで後輩かのような口振りで伝えていた。


「あ、ごめんねぇ、琉歌ちゃん。最近この曲聞いてからずっと好きなんだよねえ…」


「誰の曲なの?裕二さんくらいの歳の人が聴くような感じじゃないよね。」


「まぁね〜、仕事の空き時間に歩いてたら無料でたまたま配られたチケットで、休みの日に行ったらとてもよくてさ。」


「そう。まぁ良いけど。一人で行ったわけ?」


「ま、まぁ…」


僕が居ることなんか当たり前かのようにいつも行われているような会話が繰り広げられていた。


「あの…」


「どうしたの?」


「状況が全く分からないんだけど…」


そう、今の状況は全く意味がわからないのだ。

状況整理をしたいのだが、どこからすれば良いのかわからない状況だ。


「今はDollに向かってる。」


「まず、Dollってなんですか!!」


「簡単に言えば、対秘密結社かしら」


琉歌は僕の方を見てニヤニヤと笑っている。


「対秘密結社…?HW研究社と関係があるのかい?」


「関係はあるね。だってその研究社を潰すための場所だもの。」


僕は絶句した。そのような事をしていたら真っ先に潰されるはずだ。ありえないのだ。僕は途端に苛立ってきた。


「ふざけるのはやめてよ!!」


「ふざけてなんかない。零上一家れいじょういっかは知ってるでしょ?」


零上一家。日本で昔からいる重鎮の大金持ちの一族。あらゆるビジネスで成功しており、今年の長者番付では、あの某携帯会社などをぶっちぎりで抑えて第1位の零上十陣れいじょうじとうじん。この名は日本にいる者なら誰もが知っている名である。


「その零上一家ってのも、いわゆる隠れ蓑なんだよね。HW研究社と同じよ。私はそこのDollって所の構成員ってわけ。」


「信じられないな。それほどまでの事をこちら側が知らないわけないだろ?」


「そこに関しては私も思うわ。おそらく認知しているが手が出せないかなにかでしょう。」


「…わけがわかんないよ」


僕はそのまま黙り込んで、そのDollという場所につくまでの間、無言で二人の会話を聞いていた。


───2022年4月7日 24:05頃


「着きましたよ!」


僕はハッとして、外を見た。

そこは少し都内からは外れた田舎と呼ばれるような場所だった。あたりは暗くて分かりにくいが、都会では無いことは誰でもわかるだろう。

琉歌と、裕二さんと呼ばれる運転手は先に車を降り僕の方を向いていた。


ガチャ


ドアを開け、外に出ると、目の前には白くて大きな、いわゆる豪邸と呼ばれるような家なのかすらも不明な建物の前にいた。その豪邸の周りは木ばかりだ。


「ここが、Doll?」


「そう。というより」


そういうと琉歌は指を下に向けて


「ここの下に私たちの拠点がある。」


「下、地下か?」


「そう、とりあえず着いてきて。」


僕は琉歌と裕二さんの後を付いて行った。





────2022年4月6日 23:30頃 ジェディとフリーズの戦闘があったビル屋上にて


「こちら、HW研究社です。キーをどうぞ」


特殊端末からは、機械的な声が聞こえる。


「anti4hw6353」


「キーを確認できました。コアへお繋します。」


「こちらコア。誰かしら?」


どうでも良さそうな声色の女性。


「こちらコードネーム:アンチテーゼ。ジェディとの最後の通信があった場所に着きました。」


通話先の女性は少し鋭い声色で


「アンチテーゼ、状況はどう?」


「破壊された通信機の破片を発見。証拠隠滅は行っているようですが」


そのアンチテーゼと名乗る女は淡々と状況を伝えている。


「なんだ?」


「スコープ、リュックサック、特殊銃、あらゆる物が放置されています。フリーズの死体はおろか、ジェディの姿すらありません。」


「そう、まずいわね。周辺地域の監視カメラのデータを即刻収集し、あなたにデータを送るわ。」


「了解致しました。」


「はぁ、面倒な事ね。これは離反行為よ。まさかジェディが離反なんてね。それにフリーズの遺体がないとすると。フリーズ自体殺れて無かったんでしょう。はぁ。」


プツッ


電話が切れた。


戦闘が行われていたであろう屋上、今はただ街灯が照らされているただのビルの屋上で、ジュディとジェディの所有物だったものを女は拾い上げた。


「フリーズの操作は1からやり直しね。」


女はそう呟いて、ビルを後にした。




────2022年4月7日 00:30 Doll 地下2階応接間にて


あれから僕は、2人に連れられ建物に入っていた。玄関は特殊な認証システムのようで、登録を済ませて中へ入った。

さっそく見えるのは大広間で、両側に豪勢な2階へ行く階段が見える。


「さすが零上一家だね。」


「ホントそうよね〜、どう言ったことかしらね。」


そのまま階段は登らず右側階段のすぐ横の壁の前まで来た。


「さっき登録した情報はこのIDカードに入ってるから、ここのスキャナーで、認証してね」


僕は言われた通り、カードをスキャンした。すると


「認証されました」 ウィーーーンンン


音ともに、今までただの壁だった場所が開き、そこには


「エレベーター?」


「そう、早く乗ってもらえる?」


「わかった…よ」


「説明は後で諸々するからとりあえずあなたの部屋は地下3階って事だけ覚えといて。」


3人でエレベーターに乗り、琉歌は3階のボタンを押した。

そんなことよりも気になることがあった


「え!?ち、地下10階……!?そんな事有り得るの!?」


「あ、そういえばそうね、地下なんてせいぜい2会程度よね。HW研究社も基本地下でしょう?」


「HW研究社は地下5階までだよ……その代わり広さは格別だけどね…」


「そう。まぁ、実は地下15階まであるんだけどね。」


僕はもう驚かなかった。正直僕がなぜ今ここにいるのか理解も追いついていないからだ。


「11階からは表示されてないみたいだけど…?」


「ま、あなたにはまだ早いわ。」


「ここまで僕に教えておいて!?」


「確かにそれもそうね。でもいいのうちの統率者リーダーがそう言ってるんだからさ」


──「地下 3階です」


するとエレベーターが開き、3人順番に降りた。

壁は真っ白で、電気もしっかり通っており、床は大理石のような廊下が真っ直ぐに伸びていた。まるで映画で見るような光景だった。


「あなたは305号室、1番奥の部屋よ。あとは、好きにしてね?ちなみに外出は基本仕事以外で出来ないと思っててね。」


「え、説明は!?してくれないの!?」


「あーーもうめんどくさいなぁ………」


琉歌はひと呼吸おいて


「Dollへようこそ、氷上レイキ。今日からあなたは私たちの一員よ。あちらの組織と違って人情ある奴らしかいないから。あ、奴らって言っても、エトセトラと呼ばれる同類のやつらもいるから、話は合うんじゃないかしら?」


「……」


僕は言葉が出ないほど呆れていた。


「裕二さんあとは任せたわ、私は行くところがあるからね。」


裕二さんと呼ばれる男は、苦笑いしながら


「あ、あぁ、わかったよ琉歌ちゃん」


「え、行くってどこに?」


「氷上レイキくんが組織から離反して入り浸っていた、とある場所よ」


僕はその言葉を聞いてさらに言葉を失った。


「ごめんね、2週間前からあなたのこと監視してたのよ。統率者リーダーからの依頼でね」


琉歌は俺に向かって、ニコニコと笑いかけながらそう言った。


「もしかして…インビ」


「インビジブルよ。あなたみたいな少年がBarに入り浸るなんて、おかしな話よね?あなたの離反を援助でもしてるのかしら?」


「ま、まって!あそこは関係ないんだよ…!」


「そんな、隠さなくったていいわ。どうこうしたりしない、あわよくばこちらの一員になってくれたらいいなって」


「そ、それは、無理だと思うけどな…」


「心配ならあなたも着いて来れば良いんじゃない?それにあちらの組織もあなたがインビジブルに来ていることを認知しているでしょう?」


「それも無理だと思う…」


僕はそれ以上は何も言えなかった。

1ヶ月前組織を離反した。もちろんあの莫大な組織を離反するにはそれ相応の準備と覚悟が必要だった。僕は記憶があるうちは全て組織での記憶しかない。戦闘訓練、戦闘演習、抹殺、証拠隠滅など様々な仕事をした。全ては組織のために。その時だった、あの人と出会ったのは。


この時はまだ知らなかった。

『Bar インビジブル』

そこから始まる、運命に。




────story.01_unusual days_to be continue






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