第215話 竜族の恥


「おい、そこのお前。今からお前の裁判をするから大人しくついてこいっ!!」


 そう、我が宛がわれた牢屋の前で檻越しに若いメスの竜が命令して来るではないか。


 以前であればそのような偉そうな口を聞いてくる者はオスだろうがメスだろうが子供だろうが問答無用でその愚かさを死でもって償わせていたのだが、殺してしまうよりかは我の恐ろしさと強さを広げる語りべとして生かした方が有意義な使い方であると、この世界でのカイザル様の行動を見てそう思えるようになってきた。


 そもそも始めこそは『こんな無礼者など全員纏めて殺してしまえ』と思っていたのだが、蓋を開けてみればどうだ? 生き残った者達がカイザル様の実力を認め恐怖心をその魂にまで深く刻み込まれてしまった者達の態度は、例えカイザル様実力を広める事を禁止されていようともその態度で他の感の良い者達は薄々気付き始めているではないか。


 それどころか崇拝する者まで出てくる始末。


 そう思え始めた時『そういえば我もその一匹であったな』という事を思い出した瞬間、われの価値観は百八十度変ってしまったと言っても過言ではない。


 それと同時に我は今までなんと勿体ない子とぉおして来たのだろうかと後悔したものだ。


 その事を思えばこそここは我もそれを実行するべきであろう。


 というか『カイザル様の真似ができる絶好のチャンス』だと思えばこのメスまた、可愛いものよ。


 まさか我に無礼を働いた者に対して好意的な感情を抱けるようになるなど思いも寄らなかったのだが、竜生長く生きてみるものであるな……。


「そう大きな声で叫ばなくとも聞こえておるわ。 それで我はどこへ行けばよい?」


 そして、これからどこへ向かうのかとこのメスに問うと『そんな事も分からないのか?』という表情をするではないか。


「全く、お前は今までいったいどんな生活をしてきたのだっ!? 成人をとうに超えた竜が、竜の中でも一番偉いお方が治める竜王国の事も、その常識も何もかも知らないとは恥かしいとは思わないのかっ!?」

「いや……思わぬなぁ。それに我は今までとある人間にかしずいて生きてきたからな」

「貴様……竜ともあろうものが人間にかしずくなど恥というものを知らないのかっ!? この竜族の恥めっ!!


 その前は全ての竜を束ねていた竜の覇王と言ったところで信じて貰えない事は、今の現状を見れば理解はできるし、我が人間(カイザル様)にかしずいている事も嘘ではない。


 むしろそれにより怒り狂う目の前のメスを見ると、まるで昔の我を見ているようで何だか微笑ましく思う。

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