第213話 ブレスがでなかった事を褒めてもらいたい


「まさか事前に連絡もせずに我が国へ入ろうとしていたのか……っ!?」

「まぁ、そうなるな。それで、そなたたちの国は事前にアポイントを取っていないと入国する事はできないという事でよろしいか?」


 ルールを無視してまで我の我が儘を押し通すつもりは無いので、ダメならダメでそれで良いだろう。


 我個人の問題であれば怒り狂ってこの国の王へ『誰に対してこんな無礼な態度を取らせているのか?』と直談判しに行っていたであが、今の我はあくまでもカイザル様の配下という立場である。


 そして配下であるという事は、配下である我の尻ぬぐいをカイザル様がしなければならない事になる、という事である。


 であれば、我がここでキレて武力を使ってなし崩し的に入国する事よりも、それによって後日カイザル様が我の尻ぬぐいの為にこの国へ頭を下げに来る事の方が耐えられない。


 勿論武力で解決した方が手っ取り早くはあるのだが、今の我からすればそんな解決方法は野蛮であり知能の無い獣と何が違うというのか。


 カイザル様の配下になった事で、暴力で解決していたいままで我がいかに愚かで、低能な存在であったのかという事も分からされた。


 そう、今の我は本能ではなく知能で動く存在なのである。


「なるほど……。ちなみに事前連絡ができなかった理由と、我々の国へ訪れた理由などはあるか?」

「そうさな……ふと我と同じ同胞たちが治める国がどのようなものであるのか一度見てみたくてな……。それと連絡なのだが、そもそもそなたたちの国との連絡手段をもっておらぬから、連絡のしようがないのだ」


 取りあえず、この国へ来る理由と事前連絡ができなかった理由を聞かれたのだが、流石の我であろうと『お主たちにカイザル様の配下にならぬかと勧誘しに来た』と答えるのは悪手である事くらいできている為、それっぽい事を言ってみる。


 それに、同胞たちが治めている国がどのようなものであるのか気になっていたというのもあながち間違いではないので、嘘は言っていない。


「…………連絡手段を持っていないだと……? ちなみにお前の名前を教えて貰っても良いか?」


 そして我の話を聞いた若き竜は、我が連作手段を持っていない事に訝しむと、我の名前を聞いてくるではないか。


 ちなみに若造から『お前』と言われてブレスがでなかった事を褒めてもらいたい程である。


 一応こいつらも仕事でやっているのであろうし、不審者を入国できないというのも理解はできておるからな…………。

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