第204話 生きた心地がしなかった


 湿度とそよ風を調整して体感温度や飲み水の確保を行ったりしていた。


 飲み水と言っても水滴を一日コップ一杯程度飲めるかどうかくらいなのだが、それを飲めるのと飲めないのとでは雲泥の差であろう。


 それでも私が溶かした部分の氷は次の瞬間には再生しているのだからこのカイザル様が行使した【コキュートス】という魔術が氷の牢獄というのも頷ける程である。


 しかしながら私にとってこの氷の牢獄に閉じ込められたまま過ごした一週間は魔術の基礎を見直すという意味においても有意義な時間であったとは思うのだが、私にとってはそれよりも何よりもいくら死んでいるとはいえ『かつて部下(しかも見下していた)であった者達の前で排泄物を垂れ流す』という行為が、まさかこれ程までに解放感に溢れ、今まで満たされる事の無かった私の心の渇きが満たされたような、今まで感じたことのない幸福感に包まれたというのが大きい。


 しかもただ垂れ流すだけではなく、氷に閉じ込められているのだから当然出した物は氷の中、すなわち私の身体は日を増すごとに糞尿まみれとなっていくのである。


 これは、カイザル様という圧倒的な強さを持っているご主人様によって半強制的にさせられる『嫌なのに抗えることが出来ない環境』だからこそ得られる幸福感なのである。


 その瞬間だけは今まで私が抱えていた全てのしがらみから解き放たれたようか感覚さえあった。


 それと共に、この幸福感や解放感を今一度味わうに為には『私よりも強い魔術師』である必要があるのだと分かった時の絶望感たるや。


 そのような魔術師、それも私という美貌を持つ女性に対してこのような非道ができる男性など恐らく世界全土を探せどカイザル様お一人だけであろうという事である。


 とりあえず、帝国という名の首輪はごみ箱に捨てカイザル様の側につくことは決定事項ではあるのだが、それをカイザル様が承諾してくれるのかという事である。


 もし承諾してくれなかった場合は自害もあり得る、そう思えてしまう程私はカイザル様がいない世界では生きてはいけないし、生きていこうとすらも思わない。 それほどまで私にとってカイザル様の存在は大きく絶大なものとなっていた。


 その為、あの日カイザル様へ私の胸の内を全て話した時のカイザル様からの返答が返って来るまでは生きた心地がしなかった程である。


 ちなみに私が『もしカイザル様が受け入れてくれないのならば死ぬしかない』と言ったところゴミムシをみるような目に醜い者をみるような感情が加わったのを私は見逃さなかったし、その瞬間正直言って軽くイッた。


 まさか目線だけで果ててしまう時が来ようとは……それほどまでにカイザル様が魅力的過ぎるという証拠であろう。


 そして返ってきたカイザル様の返答は、私をカイザル様の奴隷とするという内容であった。


 あぁ、カイザル様の奴隷……その響きだけで私はもう、何度果てた事か……。 その夜はカイザル様の言葉を反芻しながら、二十回果ててからは数えていない。

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