第199話 思考までは腐っていない
そして、我はこの捕縛した者達を見て『美味そう』という感情が押し寄せて来るではないか。
生きた人間を見て『美味そう』などという感情など生前では全く以て感じたこともなければ人の肉を食べたこともないにも関わらずである。
これは恐らく鳥が誰からも教わることなく『自分は飛べるのだ』と知っており大空へと飛び立つように、オタマジャクシが成長すると誰にも教わることなく今まで水中で暮らしていたにも関わらず陸へ上がるように、我もリッチになったが故に本能が『新鮮な人間の肉は美味い』のだと語りかけてきているのであろう。
「ぬ、盗もうとした物は全て返すからっ!! 頼むっ!! 許してくれよっ!! なっ!?」
「お、俺には産まれたばかりの赤子がいるんだっ!! 殺さないでくれっ!!」
「俺が死んだら家族が路頭に迷うんだよっ!! お願いだから殺さないでくれっ!!」
そんな我の衝動を感じ取ったのか、墓荒らしをした三人は涙と鼻水を流しながら命乞いをしてくるではないか。
それも、家族をだしにしてだ。
「そおうかそうか……お主たちにはお主たちの帰りを待つ家族がおるのか……」
「あ、あぁそうだっ!! 俺が死んだら泣く者がいるんだっ!!」
「そうですっ!! ですからどうか命だけはっ!!」
「だからこそっ、俺の命は俺一人の命じゃないんだっ!!」
そして、我の言葉に三人が必死の形相で肯定してくるので、我は一呼吸おいて返事をする。
「それで、誰がその話を信じるというのかね?」
「は?」
「へ?」
「そ、そんな……っ」
そう我が返した瞬間、三人の絶望に染まった表情ときたら、まるで目の前の料理を更に美味しくさせるスパイスのようではないか。
「だってそうであろう? 誰が他人の墓を荒すような者の言葉を信じるというのかね? どうせコソ泥か何かでその日暮らしをしている窃盗グループ……いや、グループにしては少なすぎるから窃盗チームというべきか……まぁこのさいどちらでもよいか。 その窃盗チームに家族がいるとも思えない上に、人は死ぬと分かっていればある事ない事平気でうそを吐く生き物であろう? この一瞬だけ生き延びて逃げれば良いのだからその場限りの嘘で誤魔化せば良い……。 そんな事を考えているのであろう?」
そして我は捕縛した三人に向かって『どうだ? 我の推理は当たっているだろう?』という表情をしながら話す。
「何故そんな表情をするのかね? まさか、お前たちの戯言を我が信じるとでも思っているのかね? そもそも悪事を働くような者の話を信用する方が頭がおかしいだろう。 身体は腐っていても思考までは腐っていないぞっ! このクズどもがっ!!」
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