第192話 私のペットにしてやらない事もない


 その証拠に、あの日カイザルは弟相手に今まで隠していた力を見せてでも私を奪われたくなかったのだと思うと、カイザルが私をどれ程深く愛しているかというのが理解できるというものである。


 あぁ、駄目だ。 また私は同じこと考えてしまっている。


 今日で何度目か、九回目以降は数えていない。


 無意識のうちに同じことを何度も何度もぐるぐるぐるぐると考えている今の私は間違いなくどうかしている。


 こんなに男性の事を考えていては、まるで他の令嬢から良く話題に上がりその度に聞く『恋している』という状態そのものではないか。


 私が? カイザル相手に? 


 そんな事はたとえ天地がひっくり返ってもあり得ないという事は私が一番知っているのだが、では何故私はカイザルの事ばかり考えてしまっているのかと言われれば、この状態に言葉で表現する事が出来ないのだからもどかしい。


 嫉妬と怒りが混ざったような、そんな感情が一番近いきがする。


 決して恋だの愛だのという俗物的な感情では無い事だけは確かである。


 強引に例えるのならばそう、普段から世話している飼い犬に噛まれ、見知らぬ人間に尻尾を振って喜んでいる所を見たような感情に近い…………と、私は思う。


「あ? 何だよ。 俺に何か用か?」


 そして、カイザルは私の事が好きな癖に、その好きな異性から呼び止められているにも関わらずぶっきらぼうに返事をする。


 恐らく、いや、間違いなく照れ隠しだろう。


 カイザル如きが私を欺けるとでも思っているとしたら、なんと滑稽な事であろうか。


 そして私は、私に照れ隠しだとバレているとも知らずに尚も怪訝な表情を崩さないカイザルをじっくりと観察し、思う存分内心バカにした後返事をする。


「あら? 何故私に呼び止められたかも分からないのかしら? だとすれば何と知能が低いのかしら。 それこそそこら辺にいる野良猫の方が知能は高いんじゃなくて?」


 カイザルの照れ隠し故に『何で私に呼び止められたのか分からない』という発言に対して私は上から目線で言葉のナイフを刺してあげると同時に『カイザルが私の事を愛している事はとっくにお見通しである』という意味も込める。


 いくらバカなカイザルであろうとも羞恥心から、流石に顔を真っ赤にして逃げ出す事だろう。


 もし逃げ出さずにちゃんと本心を言えたのならば、そうね……私のペットにしてやらない事もないかも。


 なんて事を思う。


「いや、マジで全く分からないんだが。 用事が無いんならば俺は行くぞ? あと、用事も無いのに次呼び止めたらお仕置きだからな?」

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