第186話 自慢したい


 なのでとりあえずはカイザル様を見習ってこのエルフに関しては一旦流そうと思っていたのだが、とてもではないが流せそうもない事をさらっと言ってのけるではないか。


 もしシシルの言う事が本当であればカイザル様は自らを犠牲にして他人に嫌われるような立ち振る舞いをし、この帝国という国の為に過ごしてきた上に、学園での嫌われ方を見る間違いなくカイザル様の誤解は解けておらず、今なお嫌われ続けているという事ではないか。


 こんな、理不尽な事がまかり通って良いのだろうか?


 これをカイザル様は納得しているのだろうか?


「い、一体何故カイザル様は嫌われるように今まで過ごしてこなければならなかったのでしょうか?」


 そもそもこの部分が謎であるので私はカイザル様の気持ちも考えずにポロッと口にしてしまう。


「あっ、す、すみませんっ!! カイザル様が言いたくないのであれば言わなくても全然かまいませ──」

「敵を欺くにはまず味方という言葉があるでしょう? そもそもカイザル様の敵は帝国そのものであった為、行動するには慎重に慎重を重ねてもまだ足りない程であったという事は容易に想像できるわ。 その為仲間を作るというのも情報が漏れ出る危険性を考慮すれば作れず、そして保険として『カイザルは使えない』『カイザルは魔術や武術の才能がない』『カイザルの性格は最悪だ』『カイザルは人としてクズだ』と思われる事によって、帝国から見てカイザルの事を『使えないクズ』という評価をさせていたのよ。 これによってカイザル様は数年間秘密裏に特訓をする事によって帝国の誰よりも強くなり、腐りきっていたこの国を真正面から喧嘩を売って、結果この国の膿を出し切ってくれたのよっ!!」

「いや、流石に言い過ぎだ。 俺はただ単に喧嘩を売って来た相手を片っ端から殴り飛ばしただけだ」


 そして私の言葉は遮られ、何故かシシルが私の問いに答えてくれるではないか。

 

 そのシシルの言葉にカイザル様は『ただ殴り飛ばしただけだ』と謙遜交じりに言うのだが、そんな訳がない事くらいは私でも理解できる。


 それと共にシシルが興奮気味にカイザル様について語ってしまう気持ちもなんとなく分かってくる。


 カイザル様本人がこの調子で自慢どころかこの件に関して話そうともしないので、いち奴隷としてやきもきしてフラストレーションが溜まってしまっているのであろう。


 私がシシルの立場であったのならばやはり『私のご主人様はこんなにも凄い人なんだぞっ!!』と自慢したいと思ってしまうだろう。

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