第185話 そういう事なのだろう


「あぁ、そんな事か……」

「……そ、そんな事って……何とも思わないのですか?」


 一生分の勇気を出して聞いてみたのだが、カイザル様はそんな私の覚悟や勇気などまるで無駄であったというような態度で『そんな事か』と言うではないか。


 一瞬拍子抜けしてしまったのだが、なんとか持ちこたえて私はそのまま続きを促す。


「それはだって単純明快で俺が実際に嫌われているからで、そして嫌われるような事を今までしてきたから。 ただそれだけだ」


 そしてカイザル様は、まるで何でもないかのようにサラッと自身が嫌われている理由をおしえてくれる。


 確かに『嫌われるような事をしたから嫌われているんだ』と言われれば、こちらとしては返す言葉も無いのだが、それはそれでどのような事をしたのかが気になるのは仕方のない事だろう。


「ただそれだけって……そんな軽くしてしまえるような内容ではないと思うんですけど……?」


 私は『それで、どのような事をしてきて嫌われたんですか?』と表情で訴えながら話す。


「そうだな……例えば──」

「あなたは何も分かっていないわねっ!!」


 そして私が『カイザル様が嫌われた理由を知りたい』という事に気付いたであろうカイザル様が何で嫌われているかを話そうとしたその時、横からまたもやシシルとかいうエルフが邪魔をしてくるではないか。


 このシシルというエルフは学園の教師でもあるのだがカイザル様の奴隷でもある。


 であればご主人様であるカイザル様の話を横から遮るというのは如何なものか。


 どう考えても無礼すぎるだろう。


 カイザル様が優しいのを良い事にこの奴隷はやりたい放題ではないか。


 ここはカイザル様が怒らないと言うのであれば私がカイザル様の代わりに怒ってやるべきだろうか? とは思うものの、そもそも他人の奴隷に対してその奴隷の主人でもないのに叱るのは流石にどうかと思う為、私はシシルに対して喉まで出かかった言葉をグッと堪えて飲み込む。


 カイザル様がシシルに対して指摘しないのであれば、そういう事なのだろう。


 本当に、優しいお方である事が奴隷に対する態度からも窺えて来るのだが、だからこそ余計にカイザル様が何故学園で嫌われてしまっているのかが不思議でならないのだ。


「はぁ……そ、そうですか……」

「そうよっ! 何故ならばカイザル様はこの帝国の為にわざと今まで嫌われるように振舞って来たのよっ! にも拘わらず『なんで嫌われているのか』とカイザル様に聞くのは流石に失礼なのではっ?」

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