第170話 死が二人を分かつまで



 そして恐らくカイザル様の話を聞いて、信じかけていたのがそのまま表情に出てしまっていたのであろう。 シシルが私に対して『信用できないのであればその程度』であると突っかかって来るではないか。


 私的には確かに、実際に自分の目で見て確認などをしていないにも関わらずカイザル様を信じ切れなかった自分がいる事を指摘されて少しばかりバツが悪い感じにはなってしまうのだが、それでもここまで言われる筋合いは無いはずである。


 しかも、カイザル様の過去の事を言ったのは私の知らない誰かではなくカイザル様本人である為、それを信じてしまうのは仕方のない事であると私は思う。


「そうは言っても私はまだカイザル様と出会って二日と経っておりませんし、そもそもカイザル様本人がそう仰っているので信じてしまうのは致し方ない事だと私は思うのですけど? それで『カイザル様を信用できない』やら『その程度』やら言われる筋合いはないと思うんですけど?」

「しかしながらカイザル様の側にいればその人となりは分かる筈。 にも拘わらず気付けなかった事を自分の落ち度として受け入れるのではなく、カイザル様がそう言っていたからと言い訳をするのはどうかと思うのだけれども? あなたはそういう人間ですという自己紹介かしら?」


 ああ言えばこう言う。 このエルフはまさに面倒くさいタイプの人種である事、そして私とは相いれない事だけは理解できた。


「なにどうでも良い事で喧嘩してんだよ、お前ら? そもそも俺の性格がクズであったせいで嫌われているのは事実じゃないか。 なんでシシルはその事を否定しようとしているのか分からないんだが?」

「何をおっしゃいますかっ!! カイザル様は帝国の膿を出し切る為に十年近く出来損ないのクズで横柄な態度を取っていた事くらい私は理解しておりますわっ!! あぁ、にも関わらず未だにご自身の事をそんな風に言われて……。 確かに低姿勢な態度は美徳ではあるとは思うのですけれども、それもやりすぎれば一向に私のご主人様であるカイザル様の悪評は消えないままではございませんかっ!!」

「いや、別に悪評をどうこうしようと思っていないし、実際に事実だしなぁ……。 というかシシル先生はいつまで俺の奴隷のままでいるつもりなんだ? いつでも奴隷契約を解術できるようにしているんだが?」

「え? 死が二人を分かつまでに決まっているでしょう?」

「え? なんで『なに当たり前の事を聞いているのでしょうか? この人』みたいな雰囲気してんだよ? そもそもエルフのシシルと人族の俺とでは寿命が違うだろう……」


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