第168話 優しさが垣間見えてくる


 そしてカイザル様は周囲の貴族たちや、リリアナを無視して歩き始めるのであった。





 そして一日を終えて私は今カイザル様と一緒に食事をとる為にテーブルに着いていた。


 出されている晩御飯は聖王国で暮らしていた時の食事とは比べ物にならないくらい豪勢だと思う程の料理の数々がテーブルに並んでいる。


 朝食は私たちと同じような食事内容、パンとベーコンエッグにサラダであった(とはいってもパン一つとっても私たちが食べているパンとは違いとんでもなく上質でふわふわしてほんのり甘く、もはや別物であったのだが)ので、晩御飯も私たちと同じような物が用意されるものと思っていただけに、少しだけ驚いてしまう。


 とはいっても貴族、それも公爵家である為もしかしたらとも思っていたため、流石お貴族様だなとも思う。


「では食べようか。苦手な物とかは無いか?」

「あ、ありませんっ!!」


 そして、そんな私へカイザル様は苦手なものは無いかと聞いてくるのだが、こんな豪勢な料理の数々を前にして苦手な物を言うなど恐れ多いし罰が当たってしまいそうで、思わずセロリが苦手なのに『無い』と言ってしまう。


 セロリが、がっつり入ったサラダ……食べないと駄目だよね?


 正直な話、聖王国で暮らしていた時は、子供の頃は食事の最後にセロリだけを一気に口へ含むと飲み込まずにそのまま食器類を片付けるとトイレで吐いて捨てており、大人になるとそれとなく皆私がセロリが大の苦手だという事に気付いていたためセロリが出る事は殆ど無かったのだが、孤児という立場であり、自分の現状を理解している状況であるにも関わらずセロリだけは食べれなかったことから、私がどれだけセロリが苦手かが分かるだろう。


 そして公爵家の出された料理を、流石にトイレで吐き出すなどという事ができる訳もなく『目の前のセロリを飲み込まなければならないのか……』と、ある種の絶望を感じてしまう。


「どうした?」

「い、いえっ……なんでもありません……」

「なんでもないようには見えないが? 本当は嫌いな食材があるんじゃないのか?」

「……は、はい。 実はセロリが子供のころから大の苦手でして……すみません」

「謝る事は無い。 人間嫌いな食べ物の一つや二つくらいあるものさ」


 普通、カイザル様ほどの権力をもった人物であれば『俺の出した料理が食る事ができないと言うのかっ!?』と激昂して怒りそうなところなのだが、そんな事も無く、むしろ『苦手な物くらいあるさ』と肯定してくれるではないか。


 こういう所からもカイザル様の優しさが垣間見えてくる。

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