第166話 使えねぇ奴だな
本来であれば私が公爵家であるカイザル様にこのような対応をされる事などありえないからこそ、身分不相応にそんな事を考えてしまう。
もし私が孤児でなければ、平民、いや、貴族の産まれであれば、もしかしたらこんな日常が当たり前の生活を過ごせていたのかもしれないと思うと何だ自分が惨めに思えてくる。
いくら聖女だ何だと言われたところで所詮は貴族から寄付をされなければ食べ物も買えないような生活を送らなければならない事には変わりない上に、だからこそ多額の寄付をしてくれる貴族に対して強く出れないからこそ今回の事のような事が起こってしまったのである。
「……どうした?」
「いえ、もし私の生れが貴族ならばこんな面倒な事をしなくても良かったのかな? と思っただけです……」
「なるほど……。 でも貴族は貴族で面倒くさいぞ? 何なら平民の方がマシだなと思う事すらザラにあるくらいにはな」
「う、嘘です……。 貴族は今日食べる物にも悩む必要が無いですし、平民に対してデカい顔ができます……。 これで平民の方がマシだなんて……」
「まぁ、普通に考えればそう思うよな。 まぁ、隣の芝生は青いって事だろうね」
そしてカイザル様はそう言うと学園の校舎に向かって歩き出すので私も置いて行かれないように小走りで追いかける。
「とりあえずこの後は、侵入者だと思われない為に一度職員室へ一度行ってヒルデガルドの顔を教師陣に見せてから教室に向かう」
「は、はいっ!」
カイザル様は歩きながらこれからの事を説明するのだが、この時私は違和感を抱いた。
その違和感を抱いた時は、それが何なのか分からなかったのだが、校舎が近づいて来るたびにその違和感が何なのか分かってしまう。
学園の校舎が近づくたびに増える学生、そしてカイザル様の方を盗み見ながら皆決まってカイザル様の悪口を言っているのである。
それもカイザル様に聞こえるようにだ。
『今日も来たのかよ、アイツ』
『能無しがこの学園に来る意味なんて無いのに、いい加減その事に気付けよ』
『カイザルの隣にいるあの女性も見る目が無いわね』
『もしかしたら公爵家という肩書に騙されているんじゃないの?』
『もしそうならカイザル、サイテーね』
『というか……目障りだから消えてくれよ、使えねぇ奴だな。 ホント』
などなど、聞くに堪えない誹謗中傷がカイザル様に向けられて囁かれているのである。
流石にこんな現状に公爵家であるカイザル様が黙っている筈が無いと思っていたのだけれども、一向にカイザル様は彼らを不敬罪で罰するどころか咎める事もしないではないか。
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