第165話 お姫様になったような気分


 そしてカイザル様は私の事を気遣って傍から離れるなと指示を出してくる。


 確かに、聖王国と帝国との距離を一瞬で行き来できるほどの実力があるカイザル様の側が一番安全なのだろう。


 しかし、そのような事を指示しなくても見知った人物はカイザル様とその周りの使用人くらいしかいないのでどちらにせよ私はカイザル様の近くにいただろう。


 そもそも学園の生徒は帝国も聖王国同様に貴族が殆どだという事は知っており、そして初対面のに対して話しかる程の度胸も無ければ、近づくのも怖くてできないだろう。


 孤児である私が学園に一時的とはいえ通うという事を嫌がる貴族もいるであろうし、気付かずに不敬な態度をとってしまってせっかくカイザル様がプレヴォの魔の手から逃してくれたのに帝国でも問題を起こしてしまっては謝罪のしようもない。


「はい、もとより私はカイザル様の元から離れないつもりですので」

「そうか。 それならば安心だな。 あと、俺は学園ではかなり嫌われているから好奇な目で見られるかもしれないのだが、その事は申し訳ないのだが我慢してもらう事になる」

「……わ、分かりました」


 カイザル様程の実力があれば同年代から妬みや嫉みといった嫉妬の類を向けられてしまうのであろうか?


 それでもまぁプレヴォのねっとりとした視線と比べると全然ましである事は想像するまでもないだろう。


 そんな事を思いながら何日これから通学できるのか分からない学園生活に期待を膨らませていると、どうやら私たちが乗っている馬車は帝国立魔術学園に到着したようである。


「さて行こうか」

「は、はいっ!!」


 そして馬車が完全に止まると、御者をしていた使用人であろう男性が馬車の扉を開くと、先に馬車から降りたカイザル様が手を差し伸べながら声をかけてくれる。


 そんなカイザル様を見て、私は少し前の自暴自棄になりカイザル様に当たり散らかしていた時の事を思い出して、羞恥心やら後悔やら申し訳なさやらで地面を転げ回りたくなってくる。


 その衝動はカイザル様の人となりを知れば知るほど強くなると共に過去に戻って失礼な態度を取っていた私を殴り飛ばしてでも止めたいと思ってしまう。


「降りるときは気を付けろよ?」

「……はいっ」


 そんな私の心内を知ってか知らずか、カイザル様は私の手を握ってバランスを崩しても大丈夫なように支えてくれるではないか。


 公爵家の出身であるカイザル様からこのような対応をしてもらうと、まるで私がお姫様になったような気分である。


「あ、ありがとうございます……っ」


 

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