第164話 夢の一つ
まさかこの私が学生として学園に入学するとは思っておらず、思わず聞き返してしまう。
しかしながら確かに、付き添いよりも短期であれ入学したほうがカイザル様的にも面倒事が少ないのかもしれないし、カモフラージュもしやすいのであろう。
既に側仕えと一緒に登校しているにも関わらず、今更もう一人学園の部外者を側に侍らせて登校さえるのは確かに違和感がありすぎて、想像しただけで目立ってしまうのが分かる。
しかしながらこの私がまさかこの年になって短期と言えども学生として過ごす時が来るとは、昨日までの私では想像もできなかった事であり、未だに嘘じゃなかろうか? と思ってしまう。
なんだかんだで私は孤児であり、学園に学生として知識を学ぶという事は無いのだろうと思っていたし、早朝と夕方に見かける登校途中や下校途中の学生たちを横目で見ては少しばかり羨ましいと思いながらもその気持ちはすぐさま蓋をして押し込めていた。
今でこそ学生を見ても何とも思わないのだが、それは単純に諦めがついただけであり、学生として短期間と言えども過ごせるという事に興奮してきてしまう。
「とりあえず、今日も色々あったし明日も早いから夜更かしはせずに使用人の消灯時間に合わせてヒルデガルドもちゃんと就寝する事。 いいな?」
「……は、はいっ!」
そして力強く返事をした癖に、結局私は興奮してその日はなかなか寝付けなかったのであった。
◆
朝。
私は
中途半端な時期というのもあり、私一人であったら好奇心や期待といった感情を感じる余裕などなく、強い緊張から吐いていたかもしれなかったであろう。
しかしながら私にはカイザル様がいるのでそこまで緊張する事も無く、むしろ好奇心や期待といったプラスな感情が高ぶってしまい興奮していた。
「そんなに学園へ学生として入学するのが嬉しいのか?」
「は、はいっ! それはもうっ!! 平民、特に孤児である私からすればどんなに願っても叶わないと思っていた夢の一つでしたのでっ!! 平民であればまだ魔力や知力に長けていたり親が豪商などであればまだ通えるチャンスがあるのですが、孤児にはそんなチャンスすらありませんし……っ!」
「そ、そうか……。 まぁ、嫌だと言われるよりかはマシか。 とりあえず無いとは思うがいつ襲われても大丈夫なように俺の側からは離れるなよ?」
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