第154話 何度イキかけた事か



「それで、どうなさるのですか? リュシュリー・デュ・プレシー様」

「そうだな、放っておけ」

「よろしいのでしょうか?」

「あのバカが帰って来た時にでも説教をすれば良いだろう」


 そして俺の部下兼秘書がそう問いかけて来るではないか。


 この男は俺と共にブランシュ聖王を傀儡とする為に、俺の右の腕として裏で動いてもらっていた間柄であるのだが、今一つ頭の回転が悪いようである。


 その事に苛立つ事も多々あるのだが、そのおかげで俺がこの国の実質トップに成れたのだからこいつには引き続き少しばかり頭の回転が悪いままでいて欲しい。


 そもそも、俺もブランシュ聖王の元まで行くべきかと思ったのだが、その俺の行動を第三者が見た場合を考えた時、明らかに不自然にしか見えないのである。


 俺までブランシュ聖王についていった場合、ここ聖都にて聖王不在であり、宰相の俺まで離れてしまった場合は誰が政をしていくというのか。


 俺の立場は、ある意味でそういうブランシュ聖王がいない時の為に存在しているという側面もあるからこそ俺までいなくなるのはあまりにも不自然に見えてしまうのである。


 そしてそこまで考える事ができたからこそ俺は宰相まで上り詰めるだけではなくブランシュ聖王を傀儡としてこの国の実質トップにまで成り上がる事ができたのである。


 だからこそ俺はブランシュ聖王に仕事を押し付ける事によって自由に動けていたという側面もったのだが、ブランシュ聖王がいないという事はブランシュ聖王が行うべき仕事を俺がしなければならないという事である。


 当然ながら、だからといってブランシュ聖王がやるべき仕事を全て肩代わりするわけではなく、今やらなければならない仕事のみを行い、残りの分は全てブランシュ聖王に押し付けるのだが、それでも本来であればやる必要のない仕事をしなければならない面倒くささが無くなる訳ではない。


 さて、どうやってブランシュ聖王を説教してやろうか。


 そんな事を思いながら俺は書類に目を通してハンコを押していくのであった。





「なぁ、ガイウス陛下も知りたいであろうっ!? 本当の、この売春と人身売買という事をしている本当の黒幕をっ!! もし我の罪を無罪とするなら教えてやってもよいぞっ!!」


 俺の目の前で俺に縋りつき、唾を飛ばしながら必死の形相で取引を待ちかけて来るプレヴォの表情を見て、俺は何度イキかけた事か。


 自分の生き死にがかかっているからこそ必死になるのも、だからこそ見る事ができるその表情も、それら全てが俺の感情をビシビシと刺激して来る。

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