第143話 謝罪して来るではないか

 


 そして我のような位の低い貴族は、高位の爵位を持つ貴族たちの縄張りに足を踏み入れないように注意しながら行動をしなければならない。


 それこそ何をするにも、どこに行くのも、全てである。


 そもそも俺があいつらと一緒の場所に行くことが嫌と言うのもある。


 自分よりも上の爵位を持つ奴らを見ると、どうしても自分がみじめに思えてくるからである。


 だからこそ俺は今まで僧院にいる修道女を愛人にするという方法を思いついたのである。


 そして、丁度その時に聖女ヒルデガルドの存在をしたのだが、これこそ神が俺の為に用意してくれたプレゼントであると思った。


 そしてその熟れるにはまだ少しばかり早い果実を食べる事ができると思った瞬間に、その果実は俺の手から零れ落ちてしまうではないか。


 しかしながらその果実は床に落ちただけでどこかに消えたわけではないのだ。 であればまた拾えば良い。


 それだけなのだが、ガイウス陛下がその果実を拾おうとするのを邪魔して来るではないか。


 今日こそはと思っていたのに、今日もガイウス陛下がいるのだが、それだけではなく聖女ヒルデガルドが僧院におらず、代わりにブランシュ聖王がいる始末。


 こんな状況、特にブランシュ聖王がいるのであればたとえ僧院に聖女ヒルデガルドがいたとしても、その果実を食べる事はあまりにも危険すぎる為どのみち食べる事はできなかったであろう。


 特に今代の聖王は、聖王国の聖王という立場に恥じぬ清廉潔白なお方であり、俺が寄付金を出しに聖女を愛人にしようとしている事がバレた場合、それこそ爵位剥奪まであり得るだろう。


「ブランシュ聖王ッ 私の領地へいつ来られたのでっ!? 事前に教えていただければおもてなしをできたのですが……流石に事前に知っていない状態で来られては流石に何も用意できぬ──」

「よいよい。 そうかしこまる必要はない。 私がお主の領地に来た理由は初めからガイウスに用事があっての事なのじゃからな」


 そして、ブランシュ聖王が来てくださったというのに何も迎える準備をしていない事に気付いた俺はその事を謝罪しようとするのだが、ブランシュ聖王はそんな俺を止め、悪いのは自分であるとまで言ってくださるではないか。


 このせいで何かしらペナルティーが科された場合は流石の俺も理不尽であると思わざるをえなかったであろうが、そんな俺の予想と反してむしろ逆にブランシュ聖王は俺に対して急に訪問してきたことを謝罪して来るではないか。


 ここ聖王国で一番偉い聖王が、である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る