第138話 無色魔術【時空の扉】


「はい…………?」


 絶対に間に合わない、どうせ私はプレヴォによって慰み者にされてしまう運命なのかと絶望して諦めていたその時、ガイウス陛下と元にいきなりもう一人男性が現れたではないか。


 部屋の扉は閉まったままであり、扉が開くときは木が軋む独特な音が聞こえる為開いていたところを見逃したとは考えられない。


 では一体この男性はどのようにしてこの部屋に入って来たと言うのだろうか。


 それにここは身内または関係者にしか利用できないスペースの一角であり、ガイウス陛下と初めから付き添って来たのならば分かるのだが、私の記憶が正しければそのような人物は今までおらず、そもそもガイウス陛下は側仕え兼護衛の男性と二人でしかこの部屋に入って来ていなかったではないか。


 もしこの男性が正面からこの部屋に来ようとしてもその前のスペース入り口で関係者によって止められ入室は出来ない筈である。


 その事から、どう考えてもこの男性はこの部屋にいる事、それ自体があり得ないのである。


 それだけではなく、ガイウス陛下がこの男性の事を『カイザル様』と言いながら話しているではないか。


 ガイウス陛下の仰っていた事が正しければカイザル様というお方は今帝国の魔術学園にいる筈では無かったのか。


 今この場所にいるという事は、帝国の魔術学園にいるという事自体嘘だったのか。


 私にはもう、謎が多すぎて頭がパンクしてしまいそうである。


「あ……あの…………そ、そちらにいる方は一体……」


 私は考える事を放棄して、分からないのであればガイウス陛下に聞いてしまえば早いやと思い至り、何とかその一言を縛り出す。


「あぁ、申し訳ない。 紹介しよう。 このお方こそが先ほど俺が言っていたカイザル様である。 わざわざ無色魔術【時空の扉】を行使してくださって帝国の魔術学園からここ聖王国まで来てくださったのだ。 しかもそれだけではなく、聖女様を【時空の扉】を行使してくれ、そのまま帝国まで連れて行ってくれるそうだ。 流石に帝国まで逃げればプレヴォの脅威から逃げる事ができるであろう。 そして俺がプレヴォを潰し終えてから聖女様はここ聖王国へと戻ってくればよい」

「え? あ? へ? は、はい……っ」


 そしてそんな私に対してガイウス陛下はカイザル様を紹介がてらどうやってこの場所に来たのか、そしてどのようにして私を匿うのかを教えてくれるのだが、ガイウス陛下の言っている事が正しければカイザル様は魔術で帝国から聖王国までやって来て、そしてその魔術を行使して私を聖王国から帝国へと一時的に匿うと言うではないか。

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