第132話 ストンと私の中に入って来る


 もし男色の噂が聖王国で噂になったとしても所詮は帝国ではなく隣国での噂であり、帝国を貶める為に聖王国の貴族が流しているデマであるとかなんと、回避するやりようはいくらでもある。


 それも、プレヴォみたいな者が好みであるとなると猶更国民は聖王国から流れて来る噂など信用しないだろう。


「して、君が噂の聖女でよろしかったかな?」

「え? は、はいっ! ……とは言っても周りがそう言っているだけで実際私はここの修道女に拾われた孤児の一人でしかなく、他の孤児たちと比べてもなんら違いが無いと思っておりますので『聖女』だなんて呼ばれるとむず痒いといいますか、そんな大層な二つ名で呼ばれるのは恐れ多いと言いますか……」


 そんな事を考えていると、ガイウス陛下が私の事を聖女か?と 聞いてくるので一応私であると返事をするのだが、自分の事を『聖女』だという事が恥ずかし過ぎて思わず『私はそんな事を思ってもないし言いふらしている訳でもないし、聖女と呼ばれるような者でもなければそこらへんにいるようないたって普通の女の子である』という言い訳じみた事を早口でまくし立てる。


 そもそも、私が聖女だと言いふらしている痛い女だと思われたくないし、周りが勝手に言い始めた事は事実であるのでこれくらいの言い訳くらい言っても良いだろう。


 それに皇帝陛下に自分が『聖女』であると嘘を吐くのもどうかと思うのでこれはもう仕方のない事であろう。


 正しくは聖女だと何故か神輿上げられているただのそこらへんにいる少女でしかないのだから。


「ふむ、お前は自己評価がかなり低いようだな」

「へ?」

「お前のような美貌、そして足も長く出るとこは出て引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる完璧な身体を持つ女性は皇帝である我でさえ我妻と娘以外に出会えた事は無いぞ? もっと自信を持たぬか、もったいない。 恐らくお前が自信をもって聖女だと思い行動すれば女神、または聖母と呼ばれるほどの逸材であると何故自覚しない?」

「そ、そんな……私なんて──」

「それだ。 どうしてそう自分を低く評価するんだ? それは今までお前の事を高く評価している者に悪いとは思わないのか?」


 そしてガイウス陛下は私の目を見てそう話してくれる。


 今まででもそのような事を言ってくれる者は何人かいたし、あのプレヴォも私の事を美しいと言っていたのだが、今まではそれらの言葉を気持ち悪いと思ってしまい受け入れる事ができなかった。


 しかしながらガイウス陛下の言葉はストンと私の中に入って来るではないか。


 そこはやはり『本当はプレヴォがタイプだからまず私の事を性的に見る事もない、それでいて客観的に見た評価』だという事が大きいだろう。

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