第126話 嫌なものは嫌

 本音を言えばプレヴォから寄付金なんか貰いたくないのだけれども、その金銭で何人、何百人もの孤児たちを救える事も事実である為その事を考えると受け取らないという私一人の我が儘で数百人もの孤児たちを見捨てるような事はどうしてもできない。


 むしろ数百人もの孤児たちの事を考えれば私一人が我慢するだけで救えるのだから安いものかもしれない。


 それに、私一人の価値にプレヴォが毎回納めてくれる寄付金の半分の価値も無いと思っているため、それも相まって私は余計にプレヴォからの寄付を断れないし、ここ最近太ももなどきわどい部分をいやらしい手つきで触ってくる頻度が多くなって来ているような気がする。


 恐らく、その傾向から見てもプレヴォが私の身体を求め始めるのも時間の問題であろう。


 そして私は、今までプレヴォが寄付した金額と、ここでそれを断って孤児たちを見捨ててしまうか、それともプレヴォに身体を許すのかと問われば恐らく後者を取るであろうし、修道院の中でも司祭様や修道院長などは私がプレヴォの要望を断ることを容認しないだろう。


 それだけプレヴォは司祭様をはじめ私よりも位の高い者たちへ賄賂を贈っている事も分かっている。


 司祭様たちが神に仕えている身で、とは思う者の私も含めて彼らもまた人間であり、人間である以上それは致し方ないのかもしれない。


 それに、私が司祭様たちに救われて、ここまで育てられたのもまた事実であり、その恩を返す時がきたのかも知れない。


 私だって聖女の前に一人の女性である為、初めては好きな人と、と夢見たりもした事も一度や二度ではないのだが、世界には十歳になる前に死んでいく子供たちが毎年かなりの人数がいるのである。

 

 それを思えば、夢見る事さえできずに死んでいった子供たちよりも遥かに今の私は恵まれている環境と言えよう。


 雨をしのげる屋根に毎日三食の食事、仲のいい同僚たちに親代わりの修道女や司祭様に修道院長もいるのだ。


 身体をプレヴォに許すからと言って死ぬわけでもない。


 それなのにプレヴォに身体を許すのが嫌だと言うのは贅沢な悩みなのかもしれないし、実際に十歳も生きられなかった子供たちからすればそうなのであろう。


「でも、嫌なものは嫌ですね……」


 別段好きな異性がいるわけでもない。


 それでもあのプレヴォの私を見る時のねっとりとした視線が生理的に無理なのだから、どんなに頭の中でそれっぽい正論を並べたところで無理なものが覆る事はない。


 そして私は重い足を動かしながらプレヴォの待つ部屋へと向かう。

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