第122話 それはそれ、これはこれ


 私の記憶が正しければ私とカイザルとの婚約を破棄してカイザルの弟であるダグラスと新たに婚約関係を結ぶ筈であったのではないか?


 幸か不幸か負け犬に成り下がったダグラスとの婚約はカイザルのせいで結ぶ前にめちゃくちゃにされたのでダグラスとの婚約は結ばれていないのだが、カイザルとの婚約を破棄したからこそあの日私はダグラスとの婚約を発表する手筈になっていたはずである。


 その為今の私にはそもそも婚約者はいない筈である。


 なのにこの馬鹿親父は事もあろうに私とカイザルとの婚約がどうとか言い始めるではないか。


 確かに負け犬に成り下がったダグラスよりかはマシであるものの、今私をあそこまでコケにしてくれたカイザルと婚約をし、そして結婚までしてしまうと思うと想像しただけで全身が痒くなってくる程に身体が受け付けられない。


 私をゴミクズのように扱ったカイザルともう一度婚約をさせようなどと思っているとはお父様は私に殺されたいのであろうか?


「何を言っているんだ? お前はまだカイザル様とは婚約破棄していないぞ?」

「…………はい?」


 一体何を言っているのであろう? この糞爺は。


 カイザルの奴隷と成り下がったせいで頭でもおかしくなってしまったのであろうか?


「おかしな事を言わないでください。 お父様といえども冗談が過ぎますよ」

「お前こそ何を言っているんだ? 確かにカイザル様とリリアナとの婚約破棄の手配・・はしたのだが、受理・・はまだされていないぞ? なので今現在手続きが止まっており、その事に気付いた俺は即座にカイザルとリリアナとの婚約破棄の手配を取り消したに決まっているであろう」

「…………何し腐ってくれるのよこの馬鹿親父はっ!?」

「あ? 父親に向かってバカとはなんだ馬鹿とはっ!?」

「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いのよっ!? はぁーーーーっ、もう最悪なんですけどっ!!」


 私とカイザルがまだ婚約状態であるという事を知った途端、私の身体に湿疹が出始め全身が痒くてたまらないではないか。


 でも、と私は思う。


 以前の、カイザルの奴隷へと成り下がってしまう前までのお父様であったのならばこのようにお父様の事を『馬鹿親父』などと言って軽い口喧嘩みたいな事を言い合える間柄ではなかっただろう。


 悔しいのだが、お父様がカイザルの奴隷へと成り下がったお陰で皇帝陛下ではなくて父親として私と接してくれるようになったような気がする。 その点に関してだけは感謝してやらない事も無いのだが、それはそれ、これはこれで私に対してゴミクズのように扱った件については絶対に許さないのだが。

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