第97話 氷魔術段位八【コキュートス】



 もしかしたらその部分を省いて魔術を詠唱できるのはゲームのシステムを俺だけ引き継いでいるからこそ短い詠唱だけで行使できるのかも知れないが、今はそんな事などどうでも良いだろう。


 大事なのは今からこのオバサンを殴る事である。


 そして俺は段位八分の魔力を消費したことを確認すると、段位八の魔術を行使する為に詠唱をし始める。


「氷魔術段位八【コキュートス】」


 詠唱が終わると帯状になっている白い煙のようなものが川の流れのようにシャルロットへ向かってパキパキと音を立てながら空中を漂い始めるではないか。


「段位八? バカなのかしら? そもそもこの世界では段位六が最上級魔術であり、そこから更に二段上の魔術なんかある訳がないでしょうっ!? しかも詠唱は段位と魔術名を言うだけ。 もし本当に段位八の氷魔術があったとしても段位八の魔術が段位と魔術名を唱えるだけで行使できる訳が無いわっ!! そしてやっぱり行使された魔術はただ煙を出すだけのショボイ魔術じゃないのよっ!!」


 そしてシャルロットは俺が詠唱前は身構えていたにも関わらず、俺が行使した魔術を実際に見るとバカにしながら笑うではないか。


 シャルロットのその表情から既に俺に勝っている、こんな雑魚に負けるはずがないという感情が見て取れる。


 その間も帯状の煙は徐々にその幅と長さを大きくさせていき、パキパキと音を鳴らしながらシャルロットへと伸びていく。


「こんな煙が私に届いたとしてどうなるっていうのよっ!?」


 そして、シャルロットは自身の近くまで伸びて来た白い煙を魔杖で払う。


「………………へ?」


 すると白い煙を払った魔杖が、煙を触った個所からパキパキと音を立てながら凍り始めるではないか。


「ひぃっ!!」


 その光景を見たシャルロットは、煙に触った個所から『凍る個所が広がって行く』というヤバさに気付いたのか、この世界では値段も付けられないであろう高級な魔杖を放り投げながら白い霧から離れるではないか。


 おそらくその魔杖は前世でいうところのトップ演奏者に入るヴァイオリニストが扱うヴァイオリンぐらいの価値があってもおかしくはないだろう。


 そんな価値がある魔杖は地面に落ちる前に氷漬けになってしまう。


「な、なんなのよこの霧みたいな奴はっ!?」

「何って、聞いてなかったのか? 氷魔術段位八【コキュートス】の効果に決まっているだろう?」

「そんな事を聞いているんじゃないわよっ!! こんな奴相手にいちいち相手なんかしてられないわっ、この化け物っ!!」


 そしてシャルロットはこの場から逃げようとするのだが、そこでようやっと『自分で張った魔術を破って逃げることが出来なくなっている』という事に気が付いたみたいである。

 

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